平野レミゼラブル

サイコ・ゴアマンの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

サイコ・ゴアマン(2020年製作の映画)
4.1
【楽しく!陽気に!倫理の彼方の破滅へと突き進め!!】
6月辺りからの僕の映画のトレンドに懐かしき70〜80年代B級映画カムバックがありまして、『アフリカン・カンフー・ナチス』、『モータルコンバット』、『スレイト』と令和の時代とは思えぬレベルにシンプル!チープ!単純明快!なジャンクの味を楽しんでおりました。いずれもその期待に見事に応えてくれる怪作揃いでしたが、その一応の〆となるのが本作『サイコ・ゴアマン』です。

『サイコ・ゴアマン』(おどろおどろしい声色で読もう!)という直球でわかりやすいキャッチーなタイトルもさることながら(日本語版ロゴデザイン天才!!)、このポスタービジュアルからして漂いまくるむせ返る程のチープ&ゴテゴテ感がもう堪んない!!
僕、最初80年代に公開されたカルトスプラッタの再上映かと思いましたからね!!ところがれっきとした2021年製作のカナダ産映画なんだからおったまげる。
監督が低予算でホラー・コメディ作品を創作しているカナダの映像作家集団「アストロン6」の一人たるスティーブン・コスタンスキとのことで、その説明だけで納得ではあります。「アストロン6」作品、他に観たことないんですが、カナダにおけるトロマ社みたいなもんなんですかね。どっちかというと、イタリアの「ネクロストーム」のが雰囲気近しい感じはありますが。
ちなみに作中で出てくる身体が溶かされた状態でゾンビ化してしまった哀れな警官「バイオコップ」はアストロン6が2012年に作ったフェイク予告のキャラだそうです。

そんな感じで公開前から非常に期待値が高い映画ではあったのですが、公開直前『チェンソーマン』で知られる異能の天才漫画家藤本タツキ先生が「今年一番面白かった映画」と激賞してイラストを寄稿する夢のコラボが。

【映画ナタリー:「チェンソーマン」藤本タツキ、「サイコ・ゴアマン」を鑑賞し「最高最悪のラスト」】
https://natalie.mu/eiga/news/437862

タツキ先生自体が、単行本の帯で「○○(大体B級ホラー映画が入る)大好き!」と語り、そして自身の漫画でも映画的な演出を多様する映画好きな漫画家であるため、この評価は物凄く期待できてしまうのですよ!!
ちょうど新作読切『ルックバック』を公開したばかりで、そしてその内容がやはり映画的演出に優れており、かつあまりの傑作っぷりで話題になっている最中というタイミングも完璧でした。
人選・時期・イラスト全てがドンピシャであったため、今年のレミデミー広報賞は『サイコ・ゴアマン』で決まりですね!!


んで、実際に観てみての感想なのですが……

サイコな妹とそれに振り回される兄という構図。
どこかチープでグロテスクなんだけど、見ていて飽きない格好良い異形のデザイン。
血や臓物が飛び散り、それでいながら狂ったようなテンションで突き進む推進力。

これ藤本タツキ作品では?????

これほどまでに「藤本タツキ先生絶賛!!」という宣伝文句に全力で「でしょうね!!!!!」としか言えない映画も中々ないぞ!?
明らかに物語の質感が藤本タツキの描く短編ギャグ漫画のそれでして、このコラボ考えた人はマジで天才。「ノーベル賞受賞!」って感じにエラい!!
何が凄いってこのサイコ妹であるミミちゃんがもう完璧に藤本タツキの描く理不尽な妹の造形のそれでして、『予言のナユタ』のナユタと『チェンソーマン』のパワーちゃんを足して2で割らない感じのサイコっぷり。これ本当に脚本にタツキ先生関わっていたりしないんですか???

お話ははるか太古の昔、ガイガックスという星で凄まじい力を誇り、宇宙から全ての正義を一掃しようとしていた名も無き悪魔を何とか封じ、遠く離れた地球へと追放したところから始まります。
そして、その悪魔の封印を偶然解いてしまったのがくだんのサイコ妹・ミミちゃんでして、悪魔は早速容赦ない殺人を行い、このまま野望である全宇宙の破壊を目論むことに。
しかしミミちゃんは封印を解いた際に、この悪魔の力の源であり彼を操ることができる宝石プラクシディケを手に入れており、これを使って悪魔を自由に操れると知れば早速悪用を開始。手始めにその悪魔に「サイコ・ゴアマン(略称PG)」とイカした名前をつけて日常をサイコに謳歌しだすが、かつての悪魔が封印を解かれたことを知った全宇宙の正義「テンプル騎士団」はPG討伐の為に最強の執行人たる「パンドラ」を送ることになるが……

冒頭でミミちゃんのパパが言うありきたりの文句「本当に恐ろしいのは人間」の言葉通りに、PGが撒き散らした人間の遺体を前にしても全く動じず、それどころか彼の恐ろしい怪力や人間を一瞬でミンチにしたり悍ましいゾンビ状の怪物に変える超能力を実験として平然と気弱な兄・ルークに対して使わせるミミちゃんのあまりのサイコっぷりが恐ろしく、そしてあまりのクソガキっぷりに笑う。
一応、片思いしているルークの友人に対して良いとこ見せようとしたり、(比較的)しおらしく振る舞う辺りは年相応の女の子だし、兄に対する馬鹿にしたような態度も一般的な妹の持つものを極限まで誇張した感じなんですけどね……ただ趣味嗜好が悪趣味極まっているのと、行動原理全てがサイコなんで「怪物」としか言えないという。
よくわからない人は藤本タツキ先生の『予言のナユタ』読んでください。兄との関係性はまんま本作と同じです。

そんな誰よりもサイコな妹に振り回されるPGの方に同情してしまう作りにはなっているんですが、PGはPGで残虐宇宙人としての側面はちっとも隠そうともしないので妙なバランスが取れてる。
作中で道を歩くPGを馬鹿にした子供が一瞬で肉塊に姿を変えたり、作中のマスコットキャラである脳ミソくんは元は人間という辺り、相当にヤバいことが起きまくっているんだけど全てにおいてスルーされる具合に、本作にはあらゆる倫理観は存在しておりません。これでタツキ先生の小学生の妹であるながやまこはるちゃんも普通に観られる「PG-12」なのが凄いし、PTAも卒倒するレベルなんだけど、明るく陽気に全力で中指立てながら突っ切るエンタメ性がいっそ反道徳映画として清々しいです。
その上でタツキ先生が言うところの「最高最悪のラスト」に思いっきり突っ込んで終劇してしまうので、なんか一周回って爽やかなんですよね。なんかもう倫理とか道徳とかどうでもいいやと全て許容できてしまう空気感に溢れている。いや〜面白い。

あと、忘れちゃならないのがPGをはじめとする宇宙人たちのデザインセンスのあまりの良さ!!
低予算映画のこだわりとしてCGを極力避け、特殊メイクと着ぐるみで見せてくる為、かなりチープではあるんですがその分細かなところまで作り込んでいるので半端ない。公式サイトとか見てもらいたいんですが、全てどこかグロテスクながら軽みと格好良さが詰まっていて最高にイカしている。
個人的に『武器人間』以来の「オ、ナイスデザイン」であり、パンフのキャラ紹介や見開きで描かれる「ガイガックス評議会」なんかは『BLEACH』とかの集合絵みたいなワクワク感に溢れていて1日中眺めてられる。

各キャラのギミックとかも凝ってまして、各々がその仕掛け全開で戦う特撮アクションをしてくれるから超楽しい。その上で派手に血を撒き散らしたり、臓物や肉片を飛び散らかすといったニチアサでは絶対拝めない特撮なんだから新鮮です。PG-12指定なので保護者同伴でならキッズもちゃんと楽しめるのも優しい配慮だ。

僕の推しの宇宙人は「デストラッパー」くんですね。『武器人間』のポッドマンくんを思わせるタンク状の体でのそのそ歩くサマがとてもカワイイ!!そのクセ、そのタンクの中にはこれまでの犠牲者の死体が大量に詰め込まれているというエゲツなさがグロテスク。そして能力はその犠牲者の遺体も溶け出した超酸性の血液を噴出する凶悪さなんだけど、いかんせん相手が肉体が頑強すぎるPGなので、赤い水をかけて遊んでるようにしか見えない絵面がやっぱりカワイイ。この全体的なエグカワさは全力で推せますね……

あと、何より嬉しいのはこの宇宙人たちの造形、日本の特撮の影響を大きく受けていると明言されていることなんですよね。
テンプル騎士団の指導者であり、本作のラスボスである「パンドラ」は邪悪なエンジェウーモンって感じですが、実際は『人造人間ハカイダー』のミカエルをオマージュしたとのこと。
また、突然日本語で話すもんだからビックリしたPGの部下にして暗黒の勇士の一人「ウィッチマスター」は「はるか遠い極東の特撮の世界からやって来た」というまんまな設定を持つ上に、声優もちゃんと日本の黒沢あすか氏を起用しているんだから凄い。
それだけの気合の入れようなので、このチープさはむしろ80年代特撮とかの全力のリスペクトとしてニコニコ笑顔で受け入れて楽しむことが出来るのです。

こんな感じで全体的に人は選ぶものの、「悪趣味・殺戮だぁいすき!!」な悪いコにとっては堪らないものに溢れたビックリドッキリな玉手箱のような映画です。
ストーリーも良い意味でB級で大雑把な部分はあるものの、割と熱い伏線回収とかも盛り込んでいるので脚本の出来はかなり良い方です。内容は狂いまくっているが、作劇自体は意外に真面目だったりする。
藤本タツキ先生の作品が大好きな人であれば(特に『予言のナユタ』や『チェンソーマン』。『ルックバック』だけ読んでハマった人には流石に保証できない……)間違いなく大好きなので是非観てください。

ちなみに作中でプレイされ、ミミちゃんが宇宙チャンピオンであるカナダで14番目くらいに人気の謎スポーツ「クレイジーボール」ですが、パンフには起源まで紹介されているため、カナダの超ローカルスポーツなのかなとも一瞬思いましたが、出典が民明書房クラスのうさん臭さなので多分嘘スポーツです。
ご丁寧に公式サイトまで用意されていますが、ページの上部に『ロックマン2』のBGMが流れる再生プレイヤーが置かれている時点で真っ当なページじゃないのは確かである。何故ロックマンなのか。そしてゼッテェーCAPCOMに許可取ってないだろうけど大丈夫なんだろうか。

【(自称)クレイジーボールの公式サイト:The Official CrazyBall Website! – The Canadian Youth CrazyBall Organization】
https://crazyball.org/

公式でルール説明動画がアップされていますが(こっちは本当の本当に公式配信)、観ればわかりますがまあ本当にクィディッチを超えるクソスポーツなんですよ……なんだ最終的に最初に殴った方が勝ちって……

https://www.youtube.com/watch?v=WJJuO7OBdew

ただね、世の中には体格差によるハンデを無くすために、選手にスタンガンの使用が認められる球技「アルティメット・ボール」が実在しているように、事実は小説より狂っていることがザラなんで、僕も明確に否定できません……
なので、宇宙人の襲来に備えて、クレイジーボールの特訓をしたり、ルールの確認をしてみてもいいかもしれませんね。僕はしませんが。

ある意味オススメ!!