こうん

君が世界のはじまりのこうんのレビュー・感想・評価

君が世界のはじまり(2020年製作の映画)
3.9
ニコラス・ケイジの新作映画が満席で入れなかった(!)ので近場の映画館で時間も合うし「これ観よ」となったのですが、少年少女の“世界”を感じるには僕はオジサンすぎるな…と思いましたね。フレッシュさの欠片もない。

とはいえ、いまだに「台風クラブ」とか「リンダリンダリンダ」観て涙目になったりもするから、これは俺が悪いわけでもなさそう…かもしれない。

…などと皮肉な感じで書き出してしまいましたが、感想としては「それなりに魅力があるのに…惜しい…というか、なにか…ダサい」といったところです。

なにがダサいのか…それは多分、ある青春映画の定型にのっとり律義に描きつつ、しかしそれが薄いのか下手なのかなんなのか、作り手の「こういうのがやりたい」意識というのが伝わってきて観ていてこっちが恥ずかしい…ということになっているのだと思います。
こういうのがやりたいというのが、前述した「台風クラブ」と「リンダリンダリンダ」です。
お気持ちはわかるんですけど、そのまんますぎないだろうか…その無邪気さが恥ずかしかったです。

あとはブルーハーツ問題。
ブルーハーツの楽曲そのものはいいんだけど、それだけで成立する完璧なエモーショナル表現だから、映画で使用する段で各キャラクターの葛藤をオーバーラップさせると、もう多弁すぎるんだ。途端にクサくなってしまう。
「リンダリンダリンダ」が良かったのは、彼女たちの想いや悩みはちっぽけなんだけど彼女たちにとっては一大事というのをささやかにしか描かなかったから、終盤で多弁なブルーハーツがそのエモーションを代弁するカタルシスになっていたわけで。
家族の問題とかコミュニティへの苛立ちとかセクシャリティの不安定さとか、その要素はいいんだけど、刹那のブルーハーツ大会に仮託して好転するような軽さじゃないと思うし、好転してしまうと逆に「それだけのことだったの?」となってしまう。

なのでオジサンの結論としては、「台風クラブ」「リンダリンダリンダ」に向かわなければ、良い映画になっていたと思います。

ドラマとストーリー展開のフィクション度とリアリズムのバランスが良くなかったのかなぁとも思います。“もしかして自分だったかもしれない”事件と、閉鎖間際のショッピングモールでの一晩のバカ騒ぎが、飛躍しすぎだと思いました。

良かったのは、撮影と、琴子を演じた中田青渚さんと、純を演じた片山友希さんと、業平を演じた小室ぺいさんが出色の存在感でした。
特に中田さん琴子は永遠に観ていたいと思ったし、江口のり子さんとの母娘のシーンは倍増しても良いと思う。

全体に「これがやりたい」感が強く、いいところはいいのに、映画表現として客観性を持つことが出来ていればなぁ…と思いました。
でもまぁしかし、自分の老化による完成の鈍磨も無関係ではないと思いますよ、老眼来てるし。

もしかしたらあなたにとって傑作かもしれないので、若い人は観に行くといいと思いますよ…!
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