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神在月のこどものbackpackerのレビュー・感想・評価

神在月のこども(2021年製作の映画)
3.0
古くは『母をたずねて三千里』、最近では『思い出のマーニー』『えんとつ町のプペル』『竜とそばかすの姫』等の作品でも描かれた、「親(母)を亡くしたことで心に傷を負った子どもが、喪失を取り戻す冒険(旅)をする」という、よく言えば鉄板の、悪く言えばありふれたストーリーの本作。

ありふれた作品ということは、当然ながら"何が加えられるか?"によって差別化され、オリジナリティを有する作品になります。
本作に加えられた要素は、〈八百万の神々と神無月・神有月〉〈走る〉の二つ。
〈走る〉については、主人公の少女・神無が韋駄天の末裔という設定が付与されておりリンクします。
さて、それらオリジナリティはどのように作用し、どんな面白さを作品に与えたのでしょうか??

……残念、真価を発揮できなかった!

まず感想を簡潔に言えば"惜しかった"映画でした。
当たり障りない無難な設定で、そつなく綺麗にまとめられていましたが、いかんせんそれだけ。
特に気になるのは、せっかくの設定がかえって足枷となっているように見えること。

【ここが惜しいゾ!(※個人の見解です、悪しからず)】
①「東京の本所吾妻橋から島根の出雲大社を目指して小学6年生の少女が"走る"」という設定。
誰しもが子ども時代を経験している(ターゲット層と思われる子ども達は、まさに現在進行形)ため、その設定の「誰でもわかる厳しさ」には、無理無茶無謀を実感せざるを得ません。
純粋に、「私も走って東京から島根まで行きたい!」と思える子がどれくらいいるのか想像もつきませんが、"走る"ことの苦楽は、"走る"ということの身近さゆえに、リアルとの乖離が激し過ぎるように思えます。

②上記補うための設定が、「韋駄天の神具を身につけると、降り頻る雨が空中で止まって見えるほど、時の流れが遅くなる」というもの。
この設定、作品からスピード感を奪い、時間感覚も崩壊させ、どうにも活きません。
止まった世界を旅するため、例えば、長距離移動する作品あるあるの、風光明媚な景色を紹介する観光シーンは、前面に出せません。
時が止まってるから、風の音も、海辺の波立ちも、人々の喧騒も、焚き火の爆ぜる音も、表現できないんですからね。
そういうシーンは全て止め絵が基本になりますし、さながら止め絵だけのミュージックビデオのようです。
それにつけても、"走る"映画でありながら基本スピード感が殺されている展開は、かなり問題な気がします。

③そもそも韋駄天とは、全国の留守神様からご馳走を集めるのがお役目。しかし、東京以北や島根以西の神々は放置されます。だって、神無の走破ルートにないもんね。……ってイヤイヤ、それ、お役目果たせてんの⁉︎
大前提として、神無の目的は〈死別した母親との再会〉なので、「韋駄天のお役目なんて内心本当はどうでもいい」というのが、終盤までのスタンス。
それじゃあ、仕方ないよね。お役目半分達成でも十分過ぎるくらいだね。おいコラ。

④結局最大の問題は、盛り込み過ぎて畳めない風呂敷ではないでしょうか。
・母との再会
・走りきる(やり遂げる)力を取り戻す
・見えなかった神々の存在を想う
・韋駄天の責務(神々からご馳走を集める)
・夜叉(先祖代々韋駄天のお役目を狙う鬼の一族の少年)との友情と勝負のゆくえ
・現代人の"世界全体に対する心配りの欠落"から生じた神もどき(禍つ神のような存在の集合体。神様ではない)の存在とその対応
他にも色々ありますが、ひとまず挙げるのはこの辺で。
これら全てが、正直掘り下げが甘く散漫で、かつ行動に対する理由付けが薄いのです。
説明すべき内容を放置して終えているところも多く、投げやりにすぎる気がするのも解せません。
とりあえず、神無はどうやって島根から東京に戻ったのかくらい、教えてください!


【提案、総括、常々の疑問】
○東京〜島根間を走って周るなら、せめてもう少し期間を持たせないと不可能。
○せめてもう少し年齢を高くして、母の足跡を追うことで思い出を辿るようにした方が良かったのでは?
○ 島根から全国を周り、また島根に帰ってくるのであれば、オデュッセイア的な行きて帰りし物語になると思います。そもそも東京である必要性ないし、理由づけもないし……。
○いつも可哀想で気がかりになってしまうんですが、この手の物語における男親の存在感・影の薄さ、蚊帳の外・疎外感、どうにかなりませんか?
父親の存在が希薄になるのは、男性執筆脚本ゆえの父殺しやマザーコンプレックスの顕在と取るのは簡単なのですが、軽はずみに言うことでもないですし、不満と疑問だけが残ります。


そもそも本作、監督だけで四人が分担しており、四戸俊成監督へのネットインタビュー等からは、この体制が正解だった!という話は出ております。
(内訳は、アニメーション監督・白井孝奈さん、プリプロダクション担当のクリエーション監督・坂本一也さん、ロケーション監督・三島鉄兵、ポストプロダクション担当のコミュニケーション監督・四戸俊成)
しかし、感鑑賞して受ける印象は「船頭多くして船山に登る」。
私も大好きなスクリプトドクターの三宅隆太さんが参画し脚本を肉付けしたとのことですが、それでコレなのか……という残念感。

良く言えばわかりやすい『竜とそばかすの姫』。
悪く言えばありきたりなのに捻りのない映画。
子ども向けにしてもメッセージ性が弱く、惜しいという思いが拭えません。
とは言え、前提が子ども向けなので、そんなに突っ込んだって詮ないことですね。
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