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TITANE/チタンのhorahukiのレビュー・感想・評価

TITANE/チタン(2021年製作の映画)
4.2
愛情に満ちたアイデンティティの受容!

㊗️パルムドール!!
『RAW』のジュリアデュクルノー監督最新作。幼少期の交通事故で怪我→頭にチタンを埋め込んだ主人公が車とのSEXに励みつつ、次々に殺人を繰り返す。サイコキラーとクローネンバーグ的ボディホラーを融合し監督のジェンダー感を全面に押し出した傑作!

『クラッシュ』がなし得なかったパルムドールをカーSEXを題材としたホラー映画が25年越しに獲得するというのが熱い!デュクルノー監督らしいアイデンティティの自己受容のお話でありながら、他者による受容へと主題を発展させ、前回受賞作の『パラサイト』みも多少含めつつクローネンバーグするというぶっ飛び具合がサイコーだった!!

本作は様々な境界を次々に崩していく。ヒトと機械、男と女、実親子と偽親子、そして親と子、パートナーですら。そして、それを超えた先にある如何なる概念にも囚われない純粋な「愛情」の誕生を描く。『Junior』では思春期、『RAW』では大学生と段階を踏み、本作ではモーターショーのストリッパーで生計を立てる32才の女性を主人公に据えている。

「なぜ女性は凶悪犯と見做されないのか…」という男女間の隔たり・認識の違いを語る監督の怒りを体現するかのように、女性の中の禁忌的悪性をアイデンティティとして描いた『RAW』と同様、本作の主人公も幼少期から既に悪性が垣間見える。そしてそれは全編を通してパーソナルでミニマムな世界の中で描写を積み重ねることによって、普遍へと羽ばたかせるためのデフォルメであることが判明していく。

参照作品のひとつである『カラスの飼育』におけるアナトレントのような狂気のもと、車との結合に喜びを感じる彼女のアイデンティティを親から拒絶されてしまう孤独(音量を上げることで子どもを拒絶する反応は『少年は残酷な弓を射る』からの引用)が、結果的に(なのか望んで手に入れたのか)チタンとの結合を果たすことになる。

成長後にも父親との関係は全く良好ではないことがダメ押しされ、2人は『少年は残酷な弓を射る』と性別的にテレコな関係にあることがわかる。あちらがエディプスコンプレックスの裏返しであったのに対して、本作でもあるがままの自己を線引きをせずに受け入れてくれる存在(父親あるいはパートナー)を求めていたことが、父親と構図的に対比されるニュースから始まり、後半に向かうに連れそれが次第に明らかになってくる。2人が手を繋ぐシーンの二面鏡越しの映像が非常に印象的。

エンジン等の内部構造に臓器的印象を与えるだけでなく、『RAW』と同様に冒頭に配置された交通事故では、衝突した車の赤いバックライトが飛び散る映像に無機物の「生」の生々しさが嫌悪感たっぷりに表れ、その禁忌を強烈に漂わせる。そしてその後のワンカット長回しでは、主人公がストリップを行うまでを性搾取的映像に乗せ、車のデザインとエンジン音によりボルテージの高まりを描くシーンが強烈。それが後半に境界を剥奪し混濁した中で反復されるのも面白かった。

アイデンティティの刻印でもあるチタン跡の模様は監督曰く『めまい』から着想を得ているらしい。主人公が偽物に対して本物を見出していく心的混濁の対象として、そして恐怖症のように自身では制御できない心的反応としての意味を込めているみたい。言われてみると凄く納得!めちゃくちゃ面白かった!!
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