むぅ

TITANE/チタンのむぅのレビュー・感想・評価

TITANE/チタン(2021年製作の映画)
3.8
「待って、本当に食べるの?」

もし今この世界で牡蠣が食べ物として認識されていなかったら。
そんな中、友人が生牡蠣を食べようとしたら。
そう聞くと思う。
ずっと思っているのだが、人類で初めて牡蠣を食べようと決意した人は凄い。
美味しいし好きだが、それを踏まえても私にはあれが食べ物には見えない事がある。
なので、人類で初めて牡蠣を食べた人と話をしてみたい。

それと同等の感覚を、この監督というか主人公というか作品というか、とにかく持った。


幼い頃、交通事故により頭蓋骨にチタンプレートが埋め込まれたアレクシア。それ以降アレクシアは〈車〉に対して、異常な執着心を抱くようになって...。


[なかなか人には理解してもらえないこと]
それを抱えたら、やっぱり根底には"傷つく"という感情が生まれるのではないかなと思う。そこから、もう傷つかないために閉じこもる場合や、痛みを叫ぶ場合、痛みゆえに攻撃的になる場合、様々だと思う。
このアレクシアは"排除"する。
それが描かれる前半の"排除"の数々がとにかく痛い。
その残虐さにアレクシアの孤独を見た気がした。
"理解出来ないもの"に出会った時に心の中に少なからず"嫌悪感"を抱くのはお互い様なのだろうとも思った。そこにほんの少しの"共感"があるとその"嫌悪感"は増す気がする。
そしてその"嫌悪感"や"孤独"を解くものとは。

脳みそが足りなくて理解出来ない作品というのは結構ある。
けれども今作は脳みそではなく、自分の感性が足りない。
でも不思議とそれが不快ではないのは、今作が生半可ではなく突き抜けているからだと思う。


「ねぇねぇ、どっちも初めて見る状態でさ、どっちか食べろって言われたら生牡蠣とゴキブリ、ゴキブリの方がいけそうな気がしない?」
「なんなの、あんた」

「ねぇねぇ、"今お付き合いしてる〈車〉さん"って紹介したらどう思う?」
「なんなの、あんた」
「じゃあ、"今お付き合いしてる〈お酒〉さん"だったら?」
「どうかこの子をよろしくお願いしますって言うわ!」
「....」
「氷結無糖のグレープフルーツ味出たね」
「うん、飲んだ。美味しかった」
「浮気だね」
「...」


うーむ。
この衝撃を伝える言葉が他に見つからない。
むぅ

むぅ