平野レミゼラブル

オールド・ガードの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

オールド・ガード(2020年製作の映画)
4.1
【不死者たちが織り成す無数のエモ】
シャーリーズ・セロンの姐御が製作・主演に携わったネトフリ産アメコミ実写映画。
アメコミの実写化というとMCUやDCEUを連想しますが、本作はちょっと毛色が違うというか、そういう正に「アメコミ実写化!」ってテンションではない感じですかね。要はヒーローコスチュームに身を包むとかそういうことはないですし(強いて言うならハルバードの形状が浪漫武器)、硬派な傭兵アクション映画にファンタジー設定を盛り込んだ感じ。
かと言って別にお堅い映画ってワケでもなく、しっかり笑いも交えてエンタメしていますし、作風もアゲにアゲていくエモーショナルなもの。何よりラストにフックを作って終わるとこなんかは、昨今の流行に則ってはいるんですけどね。

そして、本作が織り交ぜたファンタジー要素ってのが「不死者」の存在です。
太古の昔より不死者は存在しており、時に一般人の中に混ざっていることもあれば、時に歴史にその名を刻むこともある。彼らに共通することは決して老化することはないということ。致命傷を負っても、例え死んでも直ちに回復・蘇生するということ。最初から不死者として産まれるのでなく、死の危機に瀕した時に突然不死者に目覚めるということ。そして、不死者が現れた時、その存在を知覚することが出来るということ。
セロンの姐御が演じるアンディが率いる傭兵部隊「オールド・ガード」は、知覚した不死者のみを集めて徒党を組み、人類史の裏側で人知れず戦っていたのだった…!

もう、この「不死者」、「傭兵部隊」、「歴史の裏側で暗躍」といったエモ要素の集合体の時点でアガるんですが、さらにアガるアクションで魅せてテンションをアゲにアゲていきます。
冒頭でアンディら「オールド・ガード」が壊滅するところから始まって「あれっ!?」ってなるんですが、それは彼女たちの終わりではなくて始まりに過ぎない。死亡確認!した敵兵達の背後から、死んだと思われた不死軍団が襲い掛かって逆襲。ゾンビめいてますが、手にする武器が中二造形ハルバードってこともあってスタイリッシュな格好良さがあります。

武器の形状だけでなく、戦闘もしっかりクールです。蘇生までにある程度時間がかかることもあって、そこまで泥試合をするわけにもいかないんですね。少人数で大勢に挑む無茶をすることは出来るものの、蘇生のクールダウン時間を確保するためのチームプレイが中々考えられています。
それでも、どうせ生き返るし…って認識は自然と緊張感を失わせてしまうものですが、中盤でアンディの昔の相棒クインが受けた魔女狩りの仕打ち——鉄の棺桶に閉じ込められて海に沈められる=無限に溺れ死ぬを明かし、不死者故のヤバい末路を示して緊張感をもたらすのが効果的。
アフガニスタンで戦死した「ハズ」だった新人不死者のナイルを回収しつつ、アンディ達はそんな自分達を捕まえようとする製薬会社マーメリックと戦うのが主な本作の流れです。

死ぬことはそこまで恐ろしくない彼女達が何より恐れるのは、拘束されること。不死者と言えど睡眠は必要だし、麻酔も効くし、死亡時は完全停止状態。となると、捕まる時は割と簡単に捕まるということなので、彼女達を不老不死実現の為のモルモットくらいにしか考えていない研究者連中が最大の敵になるわけですね。
そして、捕まった場合の無限の責め苦も、魔女狩り時代を生きたことで知っている。よって、アンディ達が武器よりも注意しているのがカメラというのも面白いです。
観光客の自撮りに巻き込まれたら、すぐさま撮影してあげる風を装って自分が写った写真を削除。部隊に蜂の巣にされて全滅されても、殺されたことではなく蘇生のサマを監視カメラに映されたことの方に舌打ちをする。昔はそれこそ堂々と、クリミア戦争時代の写真に写ったり、ギリシャ神話のアンドロマケとして崇拝されていたのに、この現代情報社会は不死者にとってまっこと生きづらい時代になり申した……


不死者としての「死んだフリ」のカッチョイイ使い方なんかは、伏線も相俟って巧いですし、シンプルに銃撃と近接格闘のどちらも魅せるアクションも面白いんですが、それでも割と「不死者モノ」に慣れ親しんだ身からすると、特別斬新まではいかないかな。ある意味、不死者あるあるの集合体ではあるので、エモくはあるけど既視感も同時にあるって感じ。
紀元前から戦うアンディが、新人不死者ナイルに戦い方や、不死者として俗世を捨てる心構えを教えるところなんかは『HELLSING』のアーカードの旦那とセラスを彷彿とさせる関係性ですしね。

それでも、本作独自のエモーショナル部分も勿論あって、まずセロンの姐御の美しさ。ハルバードと銃、旧と新を併せた浪漫装備の時点でイカすのに、それを扱うセロンの姐御が浪漫負けしない魅力を持っています。あと、単純に紀元前からの戦士だから銃より斧のが練度が高くて強いのも最高ですね。
あと「オールド・ガード」随一のバカップル、ニッキーとジョーね。彼らは十字軍の時代からの不死者で、当時は敵対して無限に殺し合っていたんだけれど、1000年の時を経て敵味方・宗教・性別の垣根を超えて愛し合う関係性に変化したってのが最高にエモい。敵に2人同時に拘束される大ピンチに遭っても、2人は互いの愛を確かめ合い、周囲の目を無視してラブラブしだすのがイイ……(因みに2人の仲を揶揄・嘲笑した奴は1人残らずボコボコにされた)2人にとってはゲイだとかの言葉で表現して欲しくはない、心の底からの愛だそうで、なんかもう本当永遠にイチャイチャしていてもらいたい。


ラスボスが小物すぎてインパクトに欠けるなどの難点もあるものの、ラストに特大のフックを作ったり、1000年以上海に沈んだままの仲間の設定も活用する気満々っぽいので、おそらく続編ありきではあるんでしょうね。
終盤にアンディの性能に大幅ナーフ食らったり、それでも他の不死者たちが強すぎたりもしているので、次回以降の敵との戦力のバランスどうするんだって心配はあるんですが、それでも続きが楽しみです。

オススメ!