こうん

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバースのこうんのレビュー・感想・評価

4.5
久しぶりに、観たものをゆっくり咀嚼したくて映画館出て家まで歩いて帰りましたね。
すんごい映画だった「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」。脳細胞がいくつか討ち死にしている感じです今…








この映画が前作を超える傑作かどうかはまだ考え中ですけど、とりあえずそのルックだけで言えば、いろんな画や色彩や描線があれやこれやと入り混じりものすごいスピードで目の前を過ぎていく。
それでいて不思議と破綻もなくむしろひとつの美的感覚で統一されていて、ほとんどアートアニメの領域。それこそ最初のバトルの場となるグッゲンハイム美術館に収蔵されていてもおかしくないレベル。

またそのアートアニメ的な様々な趣向が各キャラクターやそれぞれの葛藤と不可分の表現になっていて、スーパーヒーローものへの落とし込み方が凄まじい。

そしてたぶん作り手たちははこの「スパイダーバース」三部作でスーパーヒーロー映画に終止符を打とうとしているのではないか、というくらいの凄まじい熱量を放っていた。
少なくとも前作ではスタン・リーへ最大限のリスペクトを捧げていたけども、本作ではスーパーヒーローの祖であるスタン・リーの向こう側へと行こうとしているかのような、そういう志さえ感じたですね。
なんかMCUもDCUももういいんじゃね?というくらい、革新と核心を突きまくったスーパーヒーロー映画になっていると思う。
優れた三部作の第二作であるかのように「帝国の逆襲」的なんだけど、もうちょっとお腹いっぱいで完結編までお腹減る気がしませんよ。

しかしまあこんなにいろんなモチーフとキャラクターとドラマを持ち込んで、それをカラフルなアニメ表現で語りまくり、雑駁な感じにならないのはすごいよね。
マイルスの葛藤もその両親の葛藤もグウェンの葛藤もミゲルやピーターの葛藤もどれも等価に扱いながらきちんとレイヤー分けされた形で伝わってくるこの整理能力。
ヴィランでマクガフィンでもあるスポットですら不気味さと悲しさをビジュアルとともに見せていて、どのキャラクターも大事に描かれていることがよくわかる。
そんなキャラクターの大氾濫の中で、ヒーローと個人のアイデンティティを行ったり来たりしながら、主人公マイルスの感情旅行に収斂させていく離れ技ですよもう。
その合間合間に小ネタやギャグも忘れないし。そうそうこのスパイダーバースは「ヴェノム」や「ホームカミング」にも接続してたよね(現時点ではネタだと思うけど)。

そんで少し大人になったけど15歳のマイルスは思春期ど真ん中で、ティーンものというスパイダーマンの本懐をベースにしており、グウェンとの特殊なケミストリーが見ていて尊くてそれだけで満足です。
少し年上のオネーサンがパンク青年と仲が良くてうっすら嫉妬するのがリアル。グウェンが履いてるコンバースに「む」となったりしましたね。そのパンクスがいいやつで、そのマインドが突破口にもなってるんだけど。

そのモラレス、少しずつ聡明な眼差しを獲得していって、最期の「マジかよ」な状況でもそれほど取り乱していないのが、「ビヨンド」への期待を高めてくれます。
そうそう、アニメの表情ってある程度記号的になっちゃうと思ってましたけど、本作の表情の描写のリアリティというか、感情の襞もわかるような繊細な作り込みがされていて、そこは地味にすごいと思いましたね。左右の眉の高さとか眼球の動きとか表情筋の皺とか、リアルでしたね。

「アクロス」と「ビヨンド」が連作であることはアナウンスされていたので、このクリフハンガーラストは想定内でしたけど、そうくるか!とワクワクしましたよ。
孤立無援のマイルスには力強い仲間がいるし、アース42にはシニスターシックスがいるっぽいし。楽しみしかない!
早くおくれ!

いろんなスパイダーマン出てくるということで目を凝らしてレオパルドン探したけどたぶんいなかった…と思います。

同日公開の「ザ・フラッシュ」とヒーロー映画としてシンクロニシティを起こしているのも興味深いですね。

ところで本作は3Dバージョンは本国でも用意されてないのかしら?
前作の3Dが素晴らしすぎたので本作も期待してたんだけど、でもこれを3Dで観てたらたぶん脳が焼き切れてたかも。でも存在するなら観たい!
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