タケオ

私というパズルのタケオのレビュー・感想・評価

私というパズル(2020年製作の映画)
3.9
 監督を務めたコルネル・ムンドルッツォと脚本を執筆したカタ・ヴァーベルは実の夫婦であり、本作『私というパズル』(20年)は、実際に2人が子供を流産してしまった経験に基づいて制作された。既に2人は同名の舞台を2018年にも手掛けており、本作はその舞台を映画化した作品である。
 冒頭の約24分間にも及ぶ長回しでの自宅出産シーンは、本作の白眉といっても過言ではないだろう。主人公マーサを演じたヴァネッサ・カーヴィーの生々しい演技にも目を見張るものがあり、彼女の「痛み」や出産現場に立ち込める「不安」が鑑賞しているコチラにまでヒシヒシと伝わってくる。そしてこの場面の説得力があればこそ、後の「流産」という悲劇にも一層の重みが出ている。
 冒頭場面でのカーヴィーの演技はいわゆる「動」の演技だが、「流産」後に見せる彼女の「静」の演技も無論素晴らしい。本作でマーサが(凡庸な映画がそうしてきたように)大声で泣き喚いたり、周りに当たり散らすような真似をすることはない。そういったクリシェを拒否することで本作は、リアルで複雑な「人間の在り方」を真摯に描出することに成功している。説明的な台詞ではなく何気ない表情で視覚的に「痛み」を表現するカーヴィーの演技は、どこまでも「映画的」なものだ。
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