平野レミゼラブル

シカゴ7裁判の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

シカゴ7裁判(2020年製作の映画)
4.6
【世界は見ている!7人+αの怒れる男たち】
いや~これは面白い!1968年の民主党大会でベトナム戦争反対を訴えるデモを率いていた所属も人種もバラバラな人物達が、デモを死者をも出した暴動に発展させたとして逮捕される。その7人の被告…「シカゴ・セブン」の裁判を描いた実話系のドラマなんですが、これが令和版『十二人の怒れる男』とでも言うべき法廷劇の傑作になっています。
『十二人~』と違う点は、本作で主に白熱した議論をするのはシカゴ・セブンら被告人側であるということ。彼らは正当なデモ活動を不当な暴動に勝手に置き換えられて司法に潰されかかっている状態で、そうなると皆で一致団結して理不尽な司法制度自体に「怒れる男」となれば良いワケです。しかしそう単純にはいかず、むしろ「シカゴ・セブン」内で思想や行動の違いで舌戦を繰り広げてしまう始末。
司法側も悪辣でして、国の思想を否定するデモ側を何としてでも「悪」にしなければならないと考えている。となると、憎々しいまでの勢いで「シカゴ・セブン」側の主張を否定し、妨害して、何としてでも潰しにかかってくる。要は最初から彼らの有罪は決定事項だということで、この絶望的状況に7人+αの怒れる男たちはいかに団結し立ち向かっていくか?というお話なわけです。もうこの時点で「群像劇」として「法廷劇」として、そして「逆転劇」の面白みに溢れています。

メインは法廷劇ということで事件に至るまでの流れはスピーディー…というより、いきなり裁判から始まってメンバー達の証言から実際に事件として何があったかというのを組み立てていく作りになっています。被告はシカゴ・セブンの面々と、暴動時に現場にいなかったにも関わらず首謀者ということにされたブラックパンサー党のボビー・シールの8人。法廷劇であるため、当然検事・弁護士・判事も登場人物に加わり、その人数はかなり多いです。
しかもシカゴ・セブンの面々も学生活動組織「SDS」、「青年国際党(イッピー)」、「ベトナム戦争終結運動(MOBE)」と所属がバラバラで、かなり関係性がややこしい。前述した仲間内でも主張が異なって常にいがみ合っているというのも、その所属の違い故です。

中でも裁判中も裁判官の心象を良くしないと勝つことは出来ないと主張する冷静沈着な「SDS」のトムと、勝利のために上に媚び諂うなんて御免だと言い放ち裁判中も判事に常に食って掛かる「イッピー」のアビーの仲は特に険悪。
トムの言い分は反体制としては微塵もロックさがないのですが、アビーのパフォーマンスがガキの悪ふざけに過ぎないと言うのはごもっとも。ただ、観ている側としてはアビーのパフォーマンスはかなり笑えるユーモアになっていて、クソッタレな判事へ溜飲を下げるカタルシスもあり観ていてスカッとしたので、もっとやってくれって感じではあったんですが(笑)

そうそう、そのクソッタレ判事ことジュリアス・ホフマンは映画史に残るレベルの憎々しさで凄かったです。被告の意見は有無を言わさず棄却するし、都合が悪くなると法廷侮辱罪を何度も適用させる有り様で裁判を真面目にやる気配というものがない。その癖、自分は同名の被告をやたら気にしたり、名前の綴りを執拗に問いただしたりの意味不明さでボケ老人なのかって感じ。
口を開く度にイライラさせるので、流石に映画的誇張はあるだろうと思ったらほぼ史実で、むしろ映画での言動は氷山の一角というのだから頭を抱えるしかない。ただ、まあ映画内の巨悪としては良いキャラと言えるんですよ。実際にいたということに軽く眩暈を覚えてしまうんだけれども。

判事を始め、権力側は揃ってシカゴ・セブンたちをハメようとしているし、シカゴ・セブン側でも内輪揉めは続く有り様。どんどん状況が悪くなる胸糞展開の連続ではあるんですが、しっかり楽しめる作品になっているのはやはりエンタメ作品としての本作の強みです。
それは本作で成される会話劇の見事さによるもの。なんというかリズムが良いんですよ。冒頭から各陣営を見せて、大まかな主義主張を短いカットで述べさせてリレー式に繋いでいく。この時点で、テンポもスピードも小気味良くて観ていて気持ちが良い。セリフの応酬だけでここまで面白く出来ることに驚愕です。
さらに、この発言の中から突破口を見出していくという流れも一貫していて面白い。「待て!今、なんて言った!?」、「いや、違う!そこじゃない!!」、「そうか○○か…!これはイケるかもしれんぞ…!」って流れ来たらこれはもうミステリーで言うところの「謎は全て解けた」ですからね!会話を糸口に少しずつ奇想とでも言うべき手を見出して強大な敵に立ち向かうのは王道です。

そして、「シカゴ・セブン」での内輪揉めパート、これは散々言ってるように『十二人の怒れる男』と同質の面白さでして、要は彼らそれぞれに役割があって、これまで培ってきた矜持があるからこそ退けないという熱い魂のぶつかり合いなんですよ。さらに、物語が進むにつれて陪審8番(主人公)のポジションだと思っていた人が実は陪審3番(頑固な敵)だったり、陪審7番(不真面目)が陪審4番(冷静沈着な理論派)の顔を見せたりと、人物像が反転していく面白さがそこに加わってきます。
多種多様な顔を見せる被告人たち。確かに社会運動のやり方も、そこに至る道筋も異なる人々ではあったのですが、この場に集ったという意志は同じということにいつしか気付く。その瞬間に彼らは真に一致団結するのです。そして、その想いというのは彼らのみならず、法廷にいる全ての人々を巻き込み、今度こそ真に一つとなって間違っている権力に対抗していく。そのうねりを「世界は見ている!」のスローガンに集約し、そして現実に形にして現したラストシーンがとてつもないカタルシスとなっていて胸を熱くさせます。

超絶オススメ!!!!