むぅ

川っぺりムコリッタのむぅのレビュー・感想・評価

川っぺりムコリッタ(2021年製作の映画)
4.0
48分で、出来ること。

お風呂に入ること
ご飯を食べること
ちょっとしたお散歩

眠りにつくには足りないこともあれば、おつりがくることもある
涙がひくには足りないこともあれば、おつりがくることもある
決心したり諦めたりするには足りないこともあれば、おつりがくることもある

誰かと大笑いしながら過ごすには足りなくて、とびきり美味しいご飯を炊くのにもちょっとだけ足りない

"ムコリッタ"
仏教における単位の一つ1/30日、
48分を表す言葉。

生と死の間に横たわる時間が"ムコリッタ"だったら、それは長いのか短いのかなんて思ったりした"ムコリッタ"でおつりがくる映画館からの帰り道。


ハイツムコリッタで暮らし始めた山田。何も抱えずに生きている人は、きっといない。
そこに住む人たちと生きる時間が重なっていく様をご飯とともに描く。


音がしない"ムコリッタ"なんてないんだろうなと思うほどに色んな音に包まれる。
驚いたのは、公衆電話のボタンを押す音に懐かしさを感じたこと。
もう何年も、いや10年以上は使っていないのに。
最後に使ったのは2011年3月11日の夜。携帯は繋がらなかったのにすぐ繋がったこと、親の声が聞けたこと、10円玉がいらなかったことを覚えている。

そしてとにかくお腹が減る。
映画館でお腹が鳴りそうになったら、力を入れて音を止めようとするが今日は鳴らしておいた。
これも生きてる音だなと思うほど、スクリーンから生と死と食の音と香りがした。

江口のりこと柄本佑が共演しているのが何だか微笑ましい。
江口のりこが所属している劇団東京乾電池の主宰は、柄本佑の父の柄本明。
ハイツムコリッタの住人たちが抱える"何か"は"家族の何か"が多い。きっと2人は共演すると知った時、同じ人物を思い浮かべたのではないかな、なんて思った。
この2人、知らずに観ていた映画やドラマに出てくると、私には卵料理がとびきり美味しく出来た時のような嬉しさがある。
その演技が好きなのだ。

幸せ溢れるすき焼きのシーンがある。ぐつぐつ煮込まれる鍋の中を観ながら、今作の役者陣と具材が重なるようだった。


ご飯を炊いている間に、湯船に浸かろうと思いながら帰った。
「1人肉何gと思う?」
「養鶏場直売卵買ったよ!」
という今年2月の、いつもの4人ですき焼きをした日のLINEを読み返しながら帰った。
むぅ

むぅ