ヨーク

兎たちの暴走のヨークのレビュー・感想・評価

兎たちの暴走(2020年製作の映画)
3.5
別につまんないってことはないんだけどあんまりグッとは来ないっていうか、ちょっと惜しいなぁという感想になってしまう『兎たちの暴走』でしたね。『兎たちの暴走』というタイトルだけだとすわ『ピーター・ラビット』みたいな映画か!? と思ってしまうけど、そんなことはなくてドシリアスな映画でした。ていうかお話そのものは構成も含めて凄く面白かったんだよね。特に全体の構成の中でもお話の冒頭部分の掴みが面白くて物語に引き込む力は強かった。
肝心のそのお話。映画は唐突に車の周りで言い争う男女のシーンから始まる。その話の内容を聞いているとどうもどちらかの子供が誘拐されて身代金を要求されているらしい。そのことで警察に行くべきかどうかで揉めているみたいのなのだ。男は警察に行こうと言い、女は子供の安全のために素直に身代金を払おうと言う。しばらく揉めた後に結局警察へ行くこととなり、警察署の前で警官に事情を話していると女の方が唐突に車のトランクを開けるとそこには誘拐されたと思われる少女が…。一体どういう状況なのか、物語は冒頭の数日前に遡ってその誘拐事件の顛末が語られていく。そしてそこから始まる本編と言ってもいい過去編ではそれぞれ家庭に問題を抱えた三人の少女たちが描かれ、継母との仲が悪くて居場所のない主人公が1歳の頃に自分を捨てた母親と再会して彼女と行動を共にするようになる…というお話ですね。
そこからどのようにして冒頭の誘拐事件に繋がっていくのかというのが映画の大筋になるのだが、やっぱあらすじだけをざっと見ると面白そうだよな。俺もそう思ったから本作を観ようと思ったわけだし。でも上記したように実際に観てみると映画としてはちょっとなぁ~~となる部分もある作品だったんですよね。というのも冒頭のシーンを観たら多くの観客は、それぞれ家庭に問題はあっても田舎の地方都市にはそれなりにいそうな少女たちがこの誘拐事件にどうつながっていくのか、ということが気になると思うんだけど中々そこへ向かってお話が動いていかないんですよ。その代わりに何が描かれるのかというと不安定な10代半ばの少女たちの地方都市での生活とそのお悩み。正直、その描写自体は良かったし中国の地方都市(確か舞台は四川省の中規模な街くらいだったと思う)ばかりではなく日本だろうか欧米だろうが10代の女の子ってこんな感じだよねっていう普遍性のある描写が重ねられていたと思う。そこは良かったと思うんですよ。特に継母との関係が良くない主人公が実の父親も味方に付いてくれなくて家庭内で孤立している感じとかは中々切れのある描写で、どう見てもロクでもない母親どころか普通に他人の大人として見てもダメダメだろうという実の母親との関係に自分の居場所を求めてしまう切実さとかは説得力があった。
でもなぁ~~、その辺の細かな描写いいけど物語の大筋としての要所要所でビシッとキマらないというか散漫な感じがするシーンが目立った感じがするんですよね。凄く繊細に少女の内面描写をしてるのに肝心のお話が動くときは凄く大味な感じがして、そこがちょっと残念だったなという気がする。特にラストの展開が強引というか雑というか、え!? そのまま冒頭に繋がるの? という感じでいまいちビシっと決まらない。そこは素直に残念でしたね。
でも本作は中国で実際に起こった事件をベースにした映画であるみたいで、お話として締まらない部分っていうのはその実話ベースを忠実に再現した部分なのかなぁという気はした。いやだって現実って時として作り話を凌駕するような出来事が起こるけど、当たり前だがその現実というものは起承転結とか伏線とかに基づいて展開されていくわけではないから、基本的には身も蓋もなくて淡々としたものなのだ。そしてその現実の出来事をそのまま忠実に映画化したら、まぁちょっと物足りない淡白なものになるよなぁ、という感想になるわけである。もっとも、俺は元ネタになった事件のことを詳しく知っているわけではないのでどこまでが現実の事件でどこからが創作なのかは分かってはいないけど…。
そんな感じでお話自体や主要登場人物のである少女たちの描写やダメな母親との相互依存な感じはいいけど、作り話たる映画作品としてはちょっと盛り上がりに欠けたなぁという作品でしたね。とはいえ繰り返し書いているように被写体たる少女たちの描写は良いので、破滅的な愛とか崩れていく青春とか、そういうワードが琴線に触れる人なら観て損はない作品だと思いますよ。あとタイトルいいよね。タイトル好き。
これは完全に俺の推測だけど本作の監督は多分若い人だと思うので今後の作品は期待大です。ベテラン監督だったらすまん。ま、そんな感じでしたね。まぁまぁ面白かった。
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