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ドライブ・マイ・カーのYACCOのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.0
濱口監督が村上春樹の「ドライブ・マイ・カー」を映画化すると聞き、公開を楽しみに待っていた。カンヌでの評判もよろしく脚本賞等を受賞。期待に胸を膨らませ足を運んだ。

原作の「ドライブ・マイ・カー」の短編の設定を活かし、濱口監督らが脚本を書いたようで、原作が木の幹だとしたら、だいぶ枝葉がつき別の作品になっていたように思う。しかし、その変化は個人的には好ましく、濱口監督が原作をどう理解し、それをもって何を伝えようとしたのかもわかりやすかったし、ラストまで見た時それは確実に私の心を揺さぶるものになっていた。
179分という相変わらずの長尺だったが(正直初めて濱口監督の映画としてみた「ハッピーアワー」の317分はちょっときつかったが、そのため長尺な監督というイメージがある)、今作は長尺を覚悟していたからか、思っていたほど長さを感じなかった。
前述した枝葉の部分に原作では語られていない多くのことが描かれており、それらのエピソードに惹きつけられるものがあったからかもしれない。
村上春樹の小説には余白のような部分があり、多くを語らず読み手に考えさせるようなところがあると個人的には思っているのだが、その余白の部分に対する濱口監督の解釈を今作にて描かれているように思ったのだが、この2つの世界観にあまりズレを感じなかったのが良かった。(濱口監督と村上春樹は相性が良いのかもしれない)少々驚きの解釈もあったけれど(高槻やみさきについてなど)、それらをふまえて、繋がっていきラスト発せられるメッセージは矛盾なく心にすっと入ってきた。

また、今作は映画のなかで舞台を見せるという演出が入っている。それも、日本語以外の言語と、手話が同時に使われるという舞台だ。手話での言葉を伝えるという演出がもどかしくもあり、丁寧に何かを伝えるその様が心に響いた。(おそらく意図したことだろうけれど)
登場人物はとても限定されていて、舞台のシーンとは異なり(いや、対比的に?)、日常生活では誰もが静かに朴訥と言葉を連ねる。言葉の選択は村上春樹の世界観を継承しているようにも思うし、その表現は濱口監督の世界観に違いない。
演じる俳優も、西島秀俊演じる家福をはじめとしてこの物語に合っていたと思う。
家福の妻である音を演じた霧島れいかさん。「ノルウェイの森」の映画にも出ていたが、この方のなんというか浮世離れした雰囲気と色香は本来のものなのか、どこかで纏うものなのか。
高槻演じる岡田将生。原作とは異なり映画では深く描写された人物のひとりだが、原作を読んだ時とは全く異なり強く印象に残った。
舞台「ワーニャ伯父さん」を演じる皆様については存じあげない方が多かったのだけれど、原作には登場しないこの舞台が大きな意味を持つことは言うまでもないし、断片的ではあったものの「ワーニャ伯父さん」の舞台の台詞の数々もきっとこの映画に必要な要素だっただろう。

それらを総合すると179分という長尺でも見ている側を惹きつけるものがあったと思うし、ものすごく色々なものが詰め込まれた179分だったと思う。

最後に、映画を見てて「ん?このエピソードは?」と思うところがいくつかあったのだけれど、同短編小説集に収録されている「シェエラザード」「木野」からエピソードが抜粋されていたらしい。原作を読んでいる人は気づけると思うが。
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