タケオ

ドリームランドのタケオのレビュー・感想・評価

ドリームランド(2019年製作の映画)
3.8
-「ここではないどこか」への逃避行 『ドリームランド』(19年)-

 『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(77年)で、主人公ルーク・スカイウォーカー(マーク・ハミル)が惑星タトゥイーンの地平線に沈んでいく2つの夕陽を眺める場面が感動的なのは、そこに溢れる孤独や焦燥感に誰しもが胸を打たれるからだろう。「あぁ、自分はこのまま何もない田舎で一生を終えてしまうのだろうか・・・」冒険を夢みながらも田舎でくすぶっているルークの姿は、映画を観ている観客自身の姿とも重なるものである。
 本作の主人公ユージーン(フィン・コール)は、オビ=ワン・ケノービ(アレック・ギネス)と出会う前のルークそのものだ。姿を消した父から送られてきた絵葉書には美しい浜辺の景色が広がり、部屋に転がるコミックの中ではスーパーヒーローが大活躍。それなのに、何もないテキサスのど田舎で僕は何をしているんだろう?「ここではないどこか」、すなわち「ドリームランド」をユージーンは夢みている。そんなある日、ユージーンの前に現れたのはオビ=ワン・ケノービ・・・ではなく、なんと指名手配中の美しき女強盗アリソン・ウェルズ(マーゴット・ロビー)だった。さっさと保安官に突き出して懸賞金2万ドルを手にしようとするユージーンだったが、メキシコへの逃亡を企てるアリソンの中に次第に「ドリームランド」の存在を見いだすようになる。多感で孤独な童貞なら誰だって、マーゴット・ロビーと出会えば「ドリームランド」の存在ぐらい見いだしてしまうものだ。そんなわけで、アリソンのメキシコへの逃亡に手を貸すことにしたユージーン。「ここではないどこか」を夢みる2人は殺伐としたテキサスの荒野で静かに肩を寄せ合い、やがて後戻りができなくなっていく。
 もちろん、幸せな結末など待っているはずもない。『俺たちに明日はない』(67年)のように、やはり2人の逃避行も悲劇的な結末を迎えることとなる。いくら求めたところで「ドリームランド」などただの幻想にすぎず、その先には「虚無」しかないからだ。しかし、それでもなお「ドリームランド」の存在を信じずにはいられない。今日もまた「ここではないどこか」を夢みてしまう。そんな矛盾に満ちた人間存在のうすら寂しさが身に沁みる切ない作品である。
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