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栗の森のものがたりのalmosteverydayのレビュー・感想・評価

栗の森のものがたり(2019年製作の映画)
3.5
ワンダ以来ことごとく刺さる映画を配給しているクレプスキュールフィルムさんの第4作とあって、公開がアナウンスされた時点で観に行くものと心に決めておりました。だって間違いないんですもの。

舞台は大戦後のスロヴェニア、イタリアとの国境。年老いた男と夫の帰還を待つ若い女を軸に物語が進んでいくのですが、それぞれの視点から夢の中の夢のそのまた向こうへと切れ目なく続いていくおとぎ話のような、あるいは死にゆく者が見るという走馬灯のようであるかもしれない、現実との境目がきわめて曖昧なお話でした。じっと目を凝らさなければ人か物かもわからない暗く沈んだ寒村の屋内と、豊かに栗が実る黄金色の光に満ちた秋の景色の対比が美しくて目を奪われました。

棺を埋めるための穴に栗を敷き詰めて枯れ葉で覆うファーストカットがとても謎めいていて印象的だったのだけど、最後の最後にその意図がわかったように思います。これはきっと、人々が去り忘れ去られようとしているこの地を静かに、敬意をこめて葬ろうとしているのではないかしら?って。

最後にひとつ、気になったことを。クレプスキュールフィルムさんのパンフレットはここまで版型がまったく同じで、そこに並々ならぬ熱意と美学を感じて全作買い集めているのですが、本作のクレジットページに誤植があったのは致し方ないとしてそれを訂正する紙片にもまた誤りがあったのは少しばかり、いや非常に残念でした。信じてたのにな。
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