もものけ

TOVE/トーベのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

TOVE/トーベ(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

世界中で愛される"ムーミン"の作家トーベ・ヤンソンが生きた時代。
それは狂おしいほどの"愛"の物語だった…。





感想。
フィンランドの作家トーベ・マリカ・ヤンソンが生きた戦後時代の自伝映画で、日本でも有名で子供の頃の愛読書でもあった"ムーミン"の原作者でもある超有名人。
フィンランドでは大ヒットしてアカデミー賞国際長編映画賞として、フィンランド代表に選ばれた作品でもあるらしいです。

近年の流行となっているテーマ"LGBT”を主体に、自由奔放で保守的を嫌うトーベ・ヤンソンの生き方、"ムーミン"秘話を交えて同性愛が精神病だった時代と、芸術家は男のみである社会へ対峙した、最初のカミングアウトにも感じる一人の女性の人生を垣間見ることになります。

キリスト教儀においた"貞操観念"を全て否定するシーンが登場してきます。
"結婚しなくてはならない"
"他人のパートナーへ恋慕してはならない"
"同性で深い仲になってはならない"
"複数の関係を持つなかれ"
これらの"固定観念"を破るLGBTでの表現は、トーベ・ヤンソンが芸術界へ向けた"固定観念"への批難と対話するかのように物語では綴られており、それほど生々しい性的描写で描かない点からLGBTが主体のテーマともいえないように感じました。
この"固定観念"は、トーベ・ヤンソンが"ムーミン"を防空壕で描くシーンからも分かる通り、当時のナチスドイツへのヨーロッパとしての批難でもあることです。
人間としての"固定観念"が、独創的な芸術性を殺し、争いを生んで人を殺すことにもなるという比喩として込められているように感じました。
これを当時の戦時下における人種差別と、LGBTへの性的差別を掛けて描いているのだと思います。

劇中ではトーベ・ヤンソンは奇抜なファッションと独創的な髪型で、キャスティングされた女優アルマ・ポゥスティもコケティッシュな顔立ちの美人さというよりは、キュートな印象を感じさせます。
それでいて美しい彼女の声色は、独創的な才能が内に宿る比喩として、練り込まれております。
飛び跳ねるアルマ・ポゥスティの衣装と表情に惹かれ、影となる"ムーミン"と一体化しているポスターには、芸術性すら感じてしまうほど印象的で好きです。
美しいブロンドヘアを無造作なショートヘアにする髪型が素敵。

ペンで画かれた"ムーミン"は、私には子供時代を思い起こさせるキャラクターであり、独創的なタッチながらも児童文学の挿絵にしては、暗く淋しげな絵柄が大人びていて大好きだったので、とても楽しみにしていました。
この挿絵の雰囲気は、トーベ・ヤンソンの心を表しているように作品では描かれておりますが、納得してしまうほど。

作品には様々なアプローチで"矛盾"が溢れています。
トーベとアトスの関係。
ヴィヴィカとトーベの関係。
父親とトーベの関係。
心の奥底では惹かれ合いながらも、拒絶してしまう関係性がまるで人間関係の複雑さを表しているかのようです。
ニーチェの引用句でも表現されているとおり"既婚者の哲学者は矛盾である"とは、まさにこのことなのです。
この切なくも"矛盾"した演出で最も心を打たれたのは、あれほど娘の芸術性を否定していた父親が残したスケッチブックに、溢れるばかりの娘の作品への愛情を込めている"矛盾"です。
なかなか素直にはなれない大人になった人間同士、伝えられない想いが切なく綴られております。
これは"ムーミンとスナフキン"の関係性にも現れており、改めて"ムーミン"という童話が深い物語であったことを作品では感じました。
"トフスランとビフスラン"がトーベとヴィヴィカをモデルとしているとされますが、個人的には"ムーミンとスナフキン"が二人を表したキャラクターなのかなと思いました。

後の生涯のパートナーとなる女性との交流を描くのかと思いきや、捨て去った油絵を「新しい旅立ち」と言って唐突に幕は降ります。
しんみりするのではなく、新たな希望を感じさせる素敵なラストシーンでした。

トーベ・ヤンソン自身も、自由奔放でありながら、初めての女性への愛に苦悩する"矛盾"を抱えた存在でした。
その愛の呪縛から解放され、新しい自分へと変わろうとする、ごく普通の一人の女性だったのですね。

自伝作品は沢山映画化されておりますが、やはり個人的にゆかりのある人物の物語だと、見入ってしまうのですが、ゆかりがない人物の作品であると飽きてしまうのは、映画好きといいながらも"矛盾"した一つの感情が自分にも改めてあると感じさせられる素晴らしい作品へ、5点を付けさせていただきました!!

また"ムーミン"が読みたくなり、漫画シリーズは読んだことがなかったので、興味の湧くよい作品でありました。
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