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ハウス・オブ・グッチのYYamadaのレビュー・感想・評価

ハウス・オブ・グッチ(2021年製作の映画)
3.7
【ヒューマンドラマのススメ】
 ~映画を通じて人生を学ぶ

◆作品名:
ハウス・オブ・グッチ (2021)
◆主人公たちのポジション
ファッションブランド創業者の一族
◆該当する人間感情 (24種の感情より)
 不安、好奇心、畏敬、憤慨、優位
 
〈本作の粗筋〉 Wikipediaより抜粋
・世界的ファッションブランド「グッチ」の創業者一族出身のマウリツィオ・グッチにとって経営参加は魅力的には映らず、経営権は父ルドルフォと伯父アルドが握っている状態だった。
・そんな中、グッチの経営権を握ろうと野心を抱くパトリツィア・レッジアーニはマウリツィオと結婚し、グッチ家の内紛を利用して経営権を握っていく。しかし、一族間の対立激化と共に夫マウリツィオとの関係が悪化し、夫婦間の対立はやがてグッチ家の崩壊へと発展していく…。

〈見処〉
①それは、人を狂わすほどの名声——
・『ハウス・オブ・グッチ』は、2001年に刊行された同名ノンフィクション小説を原作とした、2021年製作の伝記映画。
・本作はイタリア・フィレンツェで設立、ブランドの元祖と呼ばれ、世界で初めて品質保証のためデザイナーの名前を商品に入れたことで知られるファッションブランド、GUCCI(グッチ)一族の1970年代からの30年の変遷を描いている。
・マウリツィオの妻で、グッチ家の崩壊を招くパトリツィア・レッジャーニを『アリー/スター誕生』(2018)のレディー・ガガ、夫マウリツィオ・グッチを『最後の決闘裁判』(2021)に続き、リドリースコット監督作品に主演するアダム・ドライバーが演じ、アル・パチーノ、ジェレミー・アイアンズ、ジャレッド・レトら、アカデミー俳優が脇を固める。

②史実の補足
本作で描かれる内容は、ほぼ史実とおりであるが、ストーリーをシンプルにするため、いくつかの改変や描写の割愛がなされている。
・グッチ創業者のグッチオには6人の子供がおり、彼が在命中から兄弟に確執あり。本作でアルパチーノが演じる三男のアルドは、父の反対を押し切りローマやニューヨーク、パリなどに海外進出。父のイニシャルからグッチのアイコンデザインである「GG柄」を考案するなど、ブランドの発展に貢献し、2代目社長に就任。
・一方、ジェレミー・アイアンズが扮した五男のルドルフォは、俳優として生計を立てることに失敗するも、父グッチオは末っ子のルドルフォを寵愛。家業を継がせるため、兄アルドと均等にグッチ株の配当を受けたことが後々のグッチの暗い歴史の発端となる。ただし、ルドルフォも芸能関係のツテを活かし、オードリーヘップバーンなどにグッチの製品を持たせることでグッチのブランディングに貢献をしている。
・ルドルフォ死後、一人息子のマウリツィオ(=アダム・ドライバー)に50%の株が相続されたが、時を同じく、アルドは自らの保有する株の一部をアルドの3人の息子ジョルジョ、パオロ、ロベルトはそれぞれ3.3%ずつ株を持たせたことから、創業者一族の「第三世代」による最高責任者の座をめぐる争いが加速する。
・本作では、アルドの脱税発覚を契機に骨肉の争いが表面化しているが、実際には、その前に「レディー・グッチ」ことパトリツィアの共謀により、アルドは退任を余儀なくされた。
・レディー・ガガが演じるパトリツィアとマウリツィオ・グッチの13年間の結婚生活の中で、2人の娘を授かっている。
・本作では、マウリツィオが外部資本に援助を求める描写となっているが、実際はアルドから20%ずつの株式を譲渡された、(本作では描かれていない)パオロ以外の2人の子供が、「マウリツィオにグッチの経営をさせるぐらいなら他人のほうがまだまし」の理由にてグッチ株の売却を行ったため。マウリツィオは経営に対し、かなり凡庸だったようだ。
・本作でも描かれている凋落したグッチを救った新鋭デザイナー、トム・フォードによると、本作でジャレッド・レトが演じたパオロは「彼は確かにエキセントリックで風変わりな行動をとっていたが、全体的な立ち振る舞いは、レトが演じたような狂気じみた、精神異常者のようなキャラクターとは明らかに違っていた」そうだ。

③結び…本作の見処は?
◎: 超一流の俳優陣のなかで、パトリツィアに扮するレディー・ガガの妖艶な演技は突出している。一流のアーティストは、一流の俳優でもある。
◎: 敵の敵は味方?クセ者揃いの一族の中で、レディー・ガガとアダム・ドライバーの「愛が壊れていく」夫婦の関係と、アル・パチーノとジャレッド・レトによる「ゴッドファーザーのマイケルとフレドのような歪な家族関係」は、目を見張るものがある。
◎: 作中の時代背景と全くリンクしていない劇中曲が印象的。とくにレディー・ガガとアダム・ドライバーの結婚式の場面のパイプオルガンからそのまま、ジョージ・マイケルの「Faith」の流れは、鳥ハダものの演出。
○: アル・パチーノによる「コンニチワ」や「御殿場モール計画」など、当時の世界バブルの牽引者は日本であったことを思い出させる。
▲: イタリア人同士の会話をイタリア風のアクセントの英語でなされる気持ち悪さが映画のリアリティーを押し下げている。
▲: レディー・ガガとアダム・ドライバー夫婦の長女の以外、作中の登場人物は加齢の演出がなく、作中の時代の変遷が全くわからない。
×: 複数箇所に中弛みを感じる作品。とくにサルマ・ハエックが扮する占い師の登場場面は、全てツマラナイ。史実であっても割愛しなかった理由に窮する。

④本作から得られる「人生の学び」
・自身の存在を認知しない相手は、たとえ最愛の人であっても、敵意に変わる。
・相手を服従させることで、不安が優越に変わる。
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