もものけ

モーリタニアン 黒塗りの記録のもものけのネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます

スラヒは、ある日突然訪れた政府機関に拘束される。
人権保護を専門に扱う弁護士ナンシーは、息子を探している母親の依頼から、"グアンタナモ収容所"に居るとされるスラヒを問い合わせようとするが、そこには8年間囚われの身となって拘束されている、アラブ人の男が無実を訴える姿があるのだった…。








感想。
悪名高きブッシュ大統領政権下にあった"グアンタナモ収容所"の囚人が書き溜めた手記を映画化しているので、売名行為なのか真実を訴えた告発なのか、ベストセラーになればなるほど分からなくなる小説が原作の作品。
作品の面白さは、アメリカ合衆国のセキュリティの高さをこれでもかと描いている点が面白い。
"グアンタナモ収容所"への入室や、"秘匿特権文書"の公文書館における厳重な管理など、ここまでやるのかというほどのセキュリティを表現しながら、言論の自由に対しても認める不思議なお国柄がよく現れております。
人権活動家が国家機密を調べる難しさは当然ですが、軍人側ですら"グアンタナモ収容所"に関しては、調べる不都合なども描かれてます。
同じ米国人でありながら国家の為に忠実に職務を行う兵士と、皮肉を述べながら"人権"をかざして歯向かってくる弁護士と、別々でありながらも国家を愛するアメリカ人という人種が、シニカルに浮かび上がってきます。

だいぶお歳を召されながらも知的さが漂う顔と、独特のイントネーションが声色を印象づけるジョディ・フォスターが、相変わらずのインパクト大の演技力で魅せてくれます。
対する相手にベネディクト・カンバーバッチが、こちらも相変わらずの素晴らしい演技力で、長身で面長な英国紳士のような声色で、軍人側の法律家として私怨が溢れる役柄が見事。
個人的には「預言者」や「マグダラのマリア」でイスカリオテのユダを演じたフランスの俳優タハール・ラヒムが、主人公を演じているのが印象的で、軽い顔立ちなのに深刻な役柄がとても上手く、今作品でも拷問を受けて苦悩する男として、二人に負けない演技力で演じており、作品のスケールが上がるほどでございます。

"アメリカ合衆国が管轄する何処でもない場所"という"グアンタナモ収容所"は、キューバの入り江に地雷地帯に囲まれて、まさに陸の孤島である治外法権の地獄。
9/11以降に強いアメリカ合衆国の意思を見せつける象徴として、対テロ戦争を打ち付けたブッシュ大統領政権に行われた非人道的収容所と言われ、数々の映画や小説でも告発され非難の的となっても未だ閉鎖をアピールするのみで、アメリカ合衆国にとっては都合のよい場所です。
ここで行われているとされる拷問の数々を、こちらの作品でも映像を駆使して告発しております。

映像センスもよく、スリラー作品として音楽を効果的に使いながら、回想シーンに視野の狭いレンズを使ったり、収容所の個室の狭さをカメラマンを無理やり押し込めてハンディカムで撮影して、より狭さを強調したりと、様々なテクニックを駆使しております。
映像の中にもシニカルな表現が盛りだくさんで、収容所に"イグアナを苛めたら罰金"と看板があったり、メッカの方角を調べてお祈りするイスラム教徒の後ろに矢印が描かれていたりと、語らない表現で映像を効果的に使っております。

モハメドゥ・ウルド・スラヒというアラブ人が主人公であり、原作者でもあるので、9/11を描いた作品でありますがアラブ人側の視点に立っており、アルカイダに接触するアラブ人の理由などを訴えるかのように表現しています。
侵略してくるソビエト連邦の共産主義者と戦わせる為に、アフガニスタン人にCIAの軍事顧問を派遣したのはアメリカ合衆国です。
そこへ義勇兵として同胞を助ける為に参加しようとするアラブ人が、後のアメリカ合衆国にとってのテロ組織となる構図が皮肉的に描かれています。

演出は非常にうまいのですが、やや引っ張り気味であるがゆえのダルさが否めない作品でした。
誇張しすぎるようにも見える、兵士がノリノリで行う拷問シーンも、映像に偏り過ぎて凄惨さが伝わらない面もあります。
あえてソフトに表現して視聴年齢制限や対象を広げる意図なのか、個人的には引っかかる点でありました。

ベトナム戦争以降からCIAが研究までして確立させた拷問テクニックは、肉体的というよりも精神的に追い詰めて自白を"強要"させるものであり、そこまでゆくともはや自白の"信憑性"が失われるほどになってゆく過程を、幻覚映像手法で表現しているのは上手いです。
とはいえ、もはや出尽くしたネタで衝撃的でもないので、大袈裟にすら見えてしまうのは残念。

ラストの"裁判に訪れる日を8年待ちました"という言葉が、普通じゃない状況をよく表していると思います。
法廷劇の前哨戦がメインなので、裁判はラストに僅かしか出てきませんが、勝訴して喜ぶ主人公でエンディングを迎えますが、彼は更に7年間も拘束されたままというのがなんとも。
感動の実話というよりは、事実を訴える作品といった感んじでしょうか。
"グアンタナモ収容所"への疑問を投げかけた作品でした、3点を付けさせていただきました。

黒塗りばかりの自伝小説がベストセラーというのも、ゴシップ好きな西洋人を表しているかのようで、皮肉的に見えますけど。
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