平野レミゼラブル

科捜研の女 -劇場版-の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

科捜研の女 -劇場版-(2021年製作の映画)
3.0
【科学力じゃなくて科捜研20年の歴史によるコネ力に潰された佐々木蔵之介は泣いていい。】
「君は京都の警察だろう?1日に何回東京に押しかければ気が済むんだ?」
それは本当にそう。

コロナ禍まっ只中の8月でも大部分の大作映画が公開された印象がありますが、9月に入ってからも続々公開されていきます。
まずはMCUフェーズ4からの新ヒーロー『シャン・チー/テン・リングスの伝説』!!主人公が地味だなんだ言われていますが、僕は元々MCUじゃキャップやウィンターソルジャーのキレキレの肉弾戦のが好きなんでね。予告編のバスアクションの時点でイカしていたシャン・チーには期待大なのですよ!!

そして、日本からは打って変わって20年の歴史を誇る老舗シリーズからの待望の劇場版!!
あれはなんだ!?鳥か!?飛行機か!?ビオランテか!?いや…!沢口靖子だ!!!!

というワケでシャン・チーを放って初日観賞をキメた『科捜研の女-劇場版-』の感想でござい……



……いやね、期待度で言うならシャン・チーのが圧倒的上だったんですよ。ただ、『科捜研の女-劇場版-』は予告の時点で「世界同時多発“科学者”不審死事件発生」と、どう考えても京都のイチ科捜研にどうこう出来るワケがないだろ!!って大風呂敷を広げていてね……トンチキ映画大好きな僕のレーダーにビビビッと来ちゃったんですよ……
となると、これはもう一刻も早く確認したいに決まってるじゃない!?だけど実は僕、科捜研って一度もまともにシリーズ追って観たことなくて、たまにお昼の再放送観たり、木曜の夜にながら見する程度でしかないんですよね。
だったらシャン・チーにするか?いや、でも悪の科学者の佐々木蔵之介も気になるし……で悩んだ結果、Twitterのアンケート機能使って決めることにしたんですね。


https://twitter.com/28kawashima/status/1431988448945065984

まあ、俺が構築したうろんなトゥイッターランドのうろんな住人共なら自然とこうなるよな!!!!
それでも最初の2日くらいはシャン・チーと五分五分だったのにね……なんかちょっと目を離した隙に「3:7」のそこそこの大差つけて科捜研が勝ちましたからね、観に行きました。
まあ、結論から言うとそこそこ面白かったです。そこそこ。


まず冒頭、やたら強調されてたっぷり時間をかけて落ちる紅葉のCGからして「嗚呼、俺はテレ朝ドラマの映画版を観ている!!」と思わずニンマリ。これだよ!このこれ見よがしなCGを何故か強調しまくる手つき!!『相棒』の劇場版でも散々見た気がするテレ朝しぐさ!!
この直後のただマリコをナンパするだけという、一体誰がこの出番で喜ぶのか全くわからない伊東四朗の意味不明な特別出演といい、何の工夫もなく場面を移し続けて次々登場人物を映していく登場人物紹介パートといい、正にテレ朝ドラマを劇場版にした時にありがちな展開が続くという実家のような安心感!!
まあ、伊東四朗はともかく、現科捜研の主要人物紹介は僕みたいな全く熱心じゃない観客にとって有難くはありましたね。

そして一通りの人物紹介が終わったタイミングで、いきなり屋上から転落する女性科学者!そのまま土門刑事とマリコが合流し、いきなり「テーケテーケテテッ♪」のお馴染みのBGMと各科学分析パートに入るスピーディーさで話が進みます。ドラマ版だと40分くらいかけてようやくのパートに開始20分以内で到達ですからね。滅茶苦茶早い。
しかし、この早速の科学鑑定の結果、転落死した科学者には何か毒物を盛られた様子も、誰かに脅された様子もなく自殺としか言えないという結果となってしまう。それでも科捜研の仲間が「殺される!助けて!」という彼女の最期の悲鳴を聞いたということで事件性があると信じて調査を続けるマリコ。
そんな中、被害者が死の直前に会いに行った人物が判明。それこそが劇場版ゲストで東京の細菌学者・佐々木蔵之介であり、彼が何かしらの科学トリックを用いて彼女を殺したのではないかという疑惑が生じるのです。

佐々木蔵之介と土門刑事の接触後、死亡した研究者に同行していたという歯周病菌研究者もやはり「助けて」という言葉を残して飛び降り自殺。さらに時を同じくしてロンドン、トロントにおいても、やはり細菌学者が飛び降り自殺をするという偶然というにはあまりにおかしい出来事が連続して発生。
これが予告にあった「世界同時多発“科学者”不審死事件」なんですが、死亡者はこの計4人であり、たまたま海外の人も死にましたレベルではあるので、予告で盛っている感じは否めないですね……どっちかというとカナダに行った科捜研のかつての仲間の活躍を入れるために事件を世界に広げた感じです。カナダだけじゃ不自然だから、ついでにもうひとつイギリスでも引き起こしておこうってことですね。ロンドンとばっちりすぎる……
あと、トリックに関してはいくらなんでも偶然性に頼りすぎていたり、2人目の被害者とかもうちょっとマシなところで殺さないか?とか、今更○○○○自殺騒動を参考にするのかよ!とか様々なガバやツッコミどころが生じていますが、これはもうスルーでいいですね。世界同時多発不審死事件とかなり盛った時点でいくらか予測はついていたし……

全体的な盛り具合からして危惧してはいましたが、案の定トリックも犯人の動機もしょっぱく、正直なところ劇場でやる話でもなかった印象なんですが、それでも「映画ならでは」の要素を最後の最後に出してはいます。
ただ、その「映画ならでは」って部分がコントのオチめいたものでして、真面目に観ていたら「ふざけんな!!」って文句言いたくなるようなモンではありました。しかし、僕は最初からツッコミ入れる体勢で観ていたんで、そのオチ部分でフフフとちょっと笑ってしまった。なので、ここは僕の負けです。笑った時点で負けだ!負け!!

あと、ドラマの時点で散々ツッコまれ続けていたであろう、「なんでイチ科捜研の科学者に過ぎないマリコが土門刑事と一緒に捜査に出張ってるんだよ!!」って部分ですが、これに関しては今回明確なロジックを持たせていたことにちょっと感心しちゃったんで、ここも僕の負けでいいです。
まさか、ここに来て過去20年来のツッコミどころに意味を持たせてくるとは思わなかった……まあ、それでもやっぱり最後の最後までマリコさんは出張って説教するんで、そこまで深い意味はないかもしれない。

また、今回のメインヴィランと言っても良い佐々木蔵之介ですが、残念ながら彼自体の魅力が活かされたとは言い難いです。というのも、度々土門刑事やマリコの捜査を妨害するにはするんですが、土門刑事が普通にアウトな高圧的捜査しでかしているんで、心情的に「佐々木蔵之介可哀想…」ってなっちゃうんですよ。
立ち位置的には、科学の発展の為ならば多少のリスクや犠牲も気にしない「悪の科学者」って感じではあるのですが、土門やマリコの強引さに終始押されているのであまりそんなイメージがない。
キャラの立てさせ方にしても、見るからに怪しい大学の、見るからに怪しい細菌の絵が飾られた、見るからに怪しい一室に陣取り、見るからに怪しい被検体2人を侍らせ、見るからに怪しいラボで、見るからに怪しいカプセルを飲ませる、見るからに怪しい実験を、見るからに怪しい研究員と一緒にやるくらいなので「見るからに怪しい科学者」でしかないという。
ポッと出の劇場版ラスボスなためわかりやすさ優先なんですが、だからこそ非常に薄いキャラクター像で物足りなさが凄い。

そんな佐々木蔵之介に対してマリコ達はというと、科学力ではなくて科捜研20年の歴史による脅威のコネ力を駆使して全力で潰しにかかってくるのが本当に酷い。
本作、オールスター勢揃いの科捜研ファンムービーの側面が強く、これまで出てきては離れていった仲間達が一同に集っていくのですが、マリコさんは彼らの力を惜しみなく使うゴリ押し戦法によって佐々木蔵之介を追い詰めていきます。1シーズンしか出なかったようなレアキャラもいるみたいなんで、長年追い続けてるファンとしては非常に嬉しいことなんじゃないでしょうか。
まあ、僕は科捜研をほとんど観てないからほぼ全員「誰!?」だったけれども。マリコさんがバツイチだって劇場版で初めて知ったしな!!

ただ、これによって明らかになるのが「マリコ、滅茶苦茶警察に甘やかされてるな…」ってことでして、まあ現在は監察官だけど元科捜研の長でもあるマリコの父(この人は流石に知ってた)が甘いのはいいでしょう。
でも、警察OBで今は警察の不祥事の被害に遭った人を助ける自浄組織に務めている人までマリコと土門に肩入れしているのはマジでどうなんだ!?佐々木蔵之介の前に現れた時は、いかにも横暴な警察許すまじみたいな感じだったのに、裏ではマリコと土門と一緒に酒飲んで良きに取り計らってるとかあんまりすぎるだろ!!まして今回の土門刑事の捜査は、徹頭徹尾違法捜査でしかないので、ひたすら蔵ちゃんが可哀想になってくる。
全体的にテーマ性が薄く感じた本作ですが、実はこうした身内贔屓の組織こそ、細菌テロといった悪の科学より何より恐ろしいと皮肉を込めて我々に伝えているのかもしれませんね。


『科捜研の女-劇場版-』を要約すると、ポッと出の佐々木蔵之介をなんとかして劇場版ラスボスにして悪の科学者として育てようとしたら、マリコさんが科捜研20年パワーという極大バフをかけて殴りかかってきた…になるので佐々木蔵之介は泣いていい。
巨大権力を武器にする相手に、胡散臭さしか取り柄がない佐々木蔵之介が勝てるワケないだろ!!こんなのほぼマリコさんの為の接待プレイだろうが!!悪の科学者だけど蔵ちゃんはマジで泣いていい。
次回作があったら今度は京都でゾンビパンデミックでも引き起こすといいよ。佐々木蔵之介のラボ、なんかクランクで水位下げたりピアノで『月光』弾いたり紋章はめたら噴水の中から入れる感じだったしT-ウイルスくらい余裕で培養できるっしょ。