平野レミゼラブル

アフリカン・カンフー・ナチスの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

4.4
【お前もガーナアーリア人にならないか?】
こないだ行った試写会でアンケートが配られまして、「今月観たい映画はありますか?」って質問があったんで真ッ先に『アフリカン・カンフー・ナチス』って書いたくらいには楽しみにしていた映画です。でも、今考えると真面目な映画の試写だったんで、今後あそこ主催の試写会にお呼ばれしなくなる可能性が高いな……
でも俺は俺の好きを否定できないもんな!!だって、死んだと思われたヒトラーと東条英機が実はガーナに渡っていて、現代まで生き延びてガーナを支配していたのでカンフーで叩きのめすトンチキ作品なんてゼッテェー面白いに決まってるじゃん!!俺の大好物確定じゃん!!いや面白いよな!?面白いですよね!!そうですよね!!
やらかしてしまった後悔なんざ投げ捨てて、いざいざ観に行きましたとも!!
 
 
もうね、冒頭でヒトラーと東条英機の史実映像に、クッソチープかつ似てないヒトラーと東条英機のコスプレしているオッサン2人がカメラ目線で握手している映像を混入させて「実は生きていた2人は潜水艦で密かにガーナに渡っていた」ってアナウンスされた時点でズルいわ!!
しかもその後にヒトラーの右腕であるヘルマン・ゲーリングも一緒だと言われるのですが、ゲーリングがどう見ても黒人なんで声上げて大爆笑ですよ。ヒトラー(ドイツ人)&東条(日本人)以外の役者は現地徴収なのでそうなったんですけど、もうこの時点であらゆる方向に喧嘩を売りまくっている。ホワイトウォッシングに対する「ブラックウォッシング」とか「カラー・ブラインド・キャスティング」とか度々議論の槍玉に挙げられますが、もう議論するのも馬鹿らしいレベルに真っ向からブン殴ってきます。凄いよ。「俺様はゲーリングだ!」じゃあないんだよ!史実映像に混ぜれば誤魔化せると思うなよ!!
 
それはともかく、ヒトラーご一向はガーナに上陸(なんでガーナなのかの説明は一切ない)。着いて早々に現地民にナタで襲われたりと災難ですが、そんな第一ガーナ人に対してヒトラーは東条英機直伝のカラテで対抗。首を捻って残虐に殺します。これ以降、ヒトラー・東条・ゲーリングは凄まじいカラテを発揮してガーナ人を次々叩きのめし、宝具「血染めの党旗」によってガーナ人をガーナアーリア人へと洗脳して勢力を拡大させていくのです。
なお、この党旗は旭日旗に卍(ハーケンクロイツではない)、ガーナアーリア人の容姿はガーナ人の顔に白粉を塗して白くするというあらゆる意味で危なっかしい表現ですが一々気にしたら体が保たないのでスルーします。
また、本作の時代背景はどう見ても現代にも関わらず、ヒトラーと東条は元気にブイブイ言わせていますが、これもどうやらカラテの神秘のおかげらしいのでスルーします。
本作はスルー力が何よりも試されます。
 
そんなこんなでヒトラーと東条率いるガーナアーリア第三帝国(因みにイタリアはポンコツ過ぎるので除外されたらしい)はガーナを完全に掌握してしまいますが、その割にガーナ人から「変な名前だよな」と馬鹿にされたりで掌握している感じが全然しないのが酷い。
東条がガーナアーリア人引き連れ行進してやることが、商店街のミカジメ料徴収な辺り、勢力は良く見繕っても地元のヤクザレベルですしね。「テンノー陛下の為に金を寄越せ」って、ガーナにテンノーはいないだろって話です。
まあ、そこらの商店のおばちゃんにミカジメ拒否されるんで、やっぱりガーナアーリア第三帝国の威光が全然足りてない感は否めませんが……しかし、そこは極悪非道の東条英機。突如、拳を光らせたと思ったら、そのシャイニングフィストでおばちゃんを殴殺する暴挙に出ます。それ、そこらのおばちゃんに気軽に打っていい奥義じゃないだろ!!
 
その後も通りかかった主人公アデーくんの彼女に「ギブミーアキス!!」とちょっかいを出し(なお東条の英語は酷いなんてもんではなく、大体において日本語を喋っている。そして、ガーナ人に通じている様子はない)、彼女の連れが「アジア人のアソコは細い」などと中傷され、やはりガーナアーリア人の威光が全くないことを示してしまいます。そもそも、彼女達を「こっちこい!」と言って連行する時に必死になって引っ張っている辺り、カラテ強者としての威光もないに等しい。
それでもブチギレた東条が「じゃあ、見せてやろうか!」とポロリした男根(の影)はご立派だったので、ガーナアーリア第三帝国、引いては日本男児の威光は守りました。このくだりは何???
 
さらにガーナアーリア第三帝国の暴虐は止まらず、主人公アデーくんの通うカンフー道場にも牙を剥く。ガーナアーリア第三帝国はその威光を知らしめるために「天下一武道会(原文ママ)」を開催したのですが、その肩慣らしとして道場破りを始めたのです。
大会代表に選ばれず不貞腐れて飲んだくれていたアデーくんも道場の危機に立ち上がり、ガーナアーリア人の猛者達と激闘を繰り広げる。本作、全体的にクソチープで出来もまあアレなところしかないんですが、ことアクションに関しては割としっかり見応えがあって良いです。出てくる現地ガーナの人々の身体能力が異様に高く、身体にバネでも入ってるんか?っていう跳ね上がり起きをしたり、キレキレの足技やジャンプを魅せてくれるので思いのほか迫力があります。
因みにこのガーナの人々、全員が鍛え上げた本職のアクション俳優ってワケでなく、カンフー映画の動きを見様見真似していただけってのが驚きです。やっぱりアフリカの人達の身体ポテンシャルはスゲェーや!!

しかし激闘の末、アデーくんの師匠はヒトラーに敗北し惨殺され、アデーくんもまたランニングシャツ焼けした貧弱な肉体を持つ東条のシャイニングフィストの前に敗れてしまいます。
東条はアデーくんの実力を認めて「気合が入ってるなぁ。テンノー陛下の為の良い軍人になる」と褒めますが、容赦なく指を切断します。良い軍人にするんじゃないの!?

ストーリーは、師匠をガーナアーリア第三帝国に殺され、彼女を攫われた挙句に血染めの党旗でエヴァ・ブラウン(黒人ver)に洗脳され、自身もまた指を斬られて武道家として再起不能となってしまったアデーくんが再起して立ち上がる復讐譚ということで、昔ながらのカンフー映画らしさはあるもののプロット自体は割としっかりしています。
ただお世辞にも出来が良いとは言い難く、トンチキすぎる登場人物、よくわからない場面、とってつけたマジックアイテム、アマチュアレベルの編集、毎試合選手の名前宣誓までやるから冗長な試合、現地のお酒会社のスポンサーアドンコマンがやたら出張る等々の粗が凄い。
でもね、ここら辺『アフリカン・カンフー・ナチス』って名前に惹かれて映画観てるボンクラが指摘するのはあまりに野暮なんですよ。むしろ、トンチキ要素は絶え間なく襲いかかってくるので、そこら辺を軽く笑い流しつつツッコミ入れながら観る分には凄く楽しいです。

要はアルコール入れながら大勢で観たら超盛り上がる映画です。
そもそも『アフリカン・カンフー・ナチス』ってタイトル自体がアルコールキメながら思い付いたような題名だしな!……って思ったら監督・脚本・ヒトラー役のセバスチャン・スタイン氏(以下、セバスタと呼ぶ)が実際にアルコールキメて思いついた単語をそのまま合わせ、その後アルコールの力を借りて書き上げた話らしいので、ほぼアル中の与太話が現実になったような映画です。い……イカれてる……!

そんな酔っ払いの勢いそのままで映画化に漕ぎ着けた作品なので、制作過程が狂気と笑いに満ち溢れている。軽く挙げるなら……

・東条英機役の秋元義人氏はセバスタの友人で、本業は俳優ではなく便利屋。故に便利屋の仕事の一環として俳優業初挑戦。
・舞台にガーナを選んだのはセバスタの性癖が黒人女性だから。撮影中は毎晩黒人女性とブンブン(隠語)していたらしい。
・それはそれとしてアフリカで一番治安が良くて映画の都であるクマシがあるのも理由の一つらしい。
・撮影後、三本指のジョーを演じた役者が喧嘩が原因で刺殺される(治安が良いとは…)ご冥福をお祈りします……
・撮影後、師匠役の役者が強盗に銃撃されて重傷を負う(治安が良いとは…)幸い現在は回復しており、彼が勇猛果敢に強盗に立ち向かった為、家族は無傷だったとのこと。カッコいいぜ、師匠!!
・撮影をブードゥーの黒魔術と勘違いされて現場から追い出される。
・撮影協力を依頼したブードゥーの巫女と意見の対立から決裂。呪いをかけられる。
・プロデューサーの車とロケバスが突如炎上爆発。
・現地監督のニンジャマンが小道具の銃を勘違いされて警察に逮捕される。
・それを宥めるために横に入ったプロデューサーが警察にアドンコ(現地の強いお酒)を薦めて逮捕される。
・そのアドンコの宣伝大使と酒を酌み交わした勢いでアドンコマンの出演が急遽決定。脈絡なくアドンコマンが画面の端々に出演。
・ゲーリングの役者が撮影をボイコットしたためアドンコマンを代役で登板(怪我の功名)
・アドンコマンが現場にアドンコを大量に差し入れるため、みんな酔っ払って撮影に重大な遅延発生。
・エンドロールにだけ登場するオッサンはテロリスト扱いされてパスポートが発行されず現地入り出来なかった人。

……とまあ、本当に頭抱えるエピソードが勢揃いです。
セバスタの所属していたドキュメンタリー配信メディア「VICE Japan」の力添えもあっての企画なため、ドキュメンタリー動画も配信されていますが、こちらとセットで観てこその『アフリカン・カンフー・ナチス』な気がします。無料配信されているので、こちらから観てみるのもアリですね。

【STAGE 1: Hitler 4 Africa 『African Kung Fu Nazis』ドキュメンタリー】
https://youtu.be/uwwdwe_2miw

【STAGE 2: ADONKO TIME 『African Kung Fu Nazis』ドキュメンタリー】
https://youtu.be/pJCgXe1Segs

【STAGE 3: THE COFFIN 『African Kung Fu Nazis』ドキュメンタリー】
https://youtu.be/b6DIePA3HuQ


ドキュメンタリー観ていただくとわかると思うんですが、本作は積極的にガーナの風土文化を作中に取り入れている作りです。なので知らない国のユニークな文化を知れるのは楽しく、他にはない独特の味わいになっていて良かったですね。
師匠のお葬式で使われる棺が車の形をしているのは、初見時は「???」だったんですが、ガーナでは死者の好きなものを模した棺を作る文化があるとのことで納得です。撮影秘話の方にあらかた書いちゃいましたが、アドンコマン、ブードゥー教の巫女もガーナを代表する文化に属するご本人様ですし、異国探訪の側面は中々趣深い。


そんな異文化を面白がり、作中でも繰り返し流される「カーン……アフリカンカンフーナァーチス…♪」の曲に合わせて鷹揚な精神でゆる〜く観るのが吉とはいえ、流石に看過できない難点もあります。
まず、字幕が何故か関西弁なんですが普通に鬱陶しいです。元々フザけきった作品ではあるので、なんで関西弁なのかを問う気も起きませんが、完全にノイズと化しています。画面や展開が十二分にフザけ切っているのに、ここに関西弁というおフザけは過剰すぎて要らないんですよ!

もう一つ、カンフーをタイトルに冠して、実際に見所になっているのに、微塵もカンフー関係ない最終決戦も本当にどうかと思う。
〆のCGがおもしろフラッシュ倉庫レベルなのも唖然としますが、これは「ガーナのジョージ・ルーカス」の異名を持つ現地監督・ニンジャマンの仕事なので、ある意味これもガーナ文化取り入れの一環かもしれない……
ニンジャマンの衝撃的CG表現はSNSでもしばし話題になってますしね。それを直に体験できただけ儲けもんと考えることにします。

【ガーナのジョージ・ルーカスことニンジャマン氏の衝撃的作風例】
https://twitter.com/Ghanarians/status/1405052847528443905


こんな感じに、B級どころか普通にZ級映画に両足突っ込んでいる作品ではあるので、強くオススメはしませんが、見所やプロットはわかりやすく存在しており、またガーナの人々の超人的身体能力で「おっ!?」となるようなアクションも拝めるので一応楽しめない作品ではないかと。
むしろ、本作で一番感動するのはこんなアル中の与太話であっても、色々と頑張って準備・企画すればちゃんとした(?)映画として公開できるんだってことですね。セバスタは各種インタビューやドキュメンタリー見ても、まあ割と胡乱なアル中って感じですが、ここまで色々やり切った力量に関しては真面目に凄いと感じます。

それに彼は彼で、ドイツ軍として従軍していた父方の血と、反スターリンで亡命したロシア人の母方の血を引いていて、幼少の時からナチスに関して色々複雑な想いを抱いていたみたいですからね。母方の継父が強制収容所のユダヤ人ということもあって、母親からネオナチにちょっとでも通じるものを禁じられることに不満を感じていたそうです。
セバスタ曰く「こうやってなんでもナチスに関連するものを過剰に禁じていると、却ってヒトラーの神聖化が進まないか?」とのこと。その思想の下、彼は青年期からヒトラーの格好で滑稽なことをして貶めまくる反ヒトラーパンクを貫いているため、本作が撮影された意義は割とまともです。
ある種、チャップリンにも通じる思想ですが、これ以上褒めるとチャップリンに失礼になるのでやめます。あと、この作品でこれ以上真面目な話したくねェ!!

…とまあ、ここまで読んで「観たい!!」と思える胡乱な人ならば、十分『アフリカン・カンフー・ヒトラー』を楽しめる人種ガーナアーリア人だと思われるので観て損はないかと。
いずれアドンコ飲みながらの上映会とか出来たら楽しそうですね〜。今はコロナ禍ってこともあって、アドンコの輸入も難しい状況みたいですけど。

劇場で観る勇気がなくても、Amazon Primeでなら200円で観賞できますしね!というか今気づいたんですがアマプラだと劇場で観るより安く購入(1000円)まで出来るじゃん……

お前もガーナアーリア人にならないか?