平野レミゼラブル

ある用務員の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

ある用務員(2020年製作の映画)
3.6
【暗殺者勢揃い!緊迫の殺人空間!用務員は娘を守って抜け出せるか…!?】
いつの間にか『ザ・ファブル』の続編が延期となってしまいましたが、その穴を埋めるかのような「ナメてた奴が凄いヤクザの殺し屋だった」パターンの低予算邦画がやって参りました。
話の内容は超単純明快で、ヤクザの親分の娘を狙って学校にやってくる殺し屋8人vs親分の命令を受けて用務員として影から娘を見守っていた殺し屋によるバトルロワイヤル。
福士誠治演じるその最強の用務員・深見のアクションが中々凄く、隠しようがない低予算っぷりを補う動きを魅せてくれます。襲ってくる殺し屋連中も爺さんスナイパー、ウェイ系ボクサー、アホの子中卒ヤクザとバラエティ豊か。さらにそこにJKアサシンコンビというキャラが立ちまくっているにも程があるキャラが投入されるんでテンション上がりまくるってわけです。

やはり何と言ってもJKアサシンコンビが最高。天真爛漫で元気いっぱい直情型の黒髪ロングなリカと、無口で感情を表に出さないけどリカを愛してるのがわかる冷静沈着型の金髪ショートなシホの取り合わせの時点でなんかもう「キテるね…!」としか言えません。任務前にイチャイチャたこ焼き頬張ってるとこや、2人乗り自転車で現場入りするとこにニコニコしてしまうし、現場でシホがリカの拳銃の弾をリロードしてやる姿も滅茶苦茶イイ。
図書館での死闘は本作随一のアクションシーンでして、特にシホがあまりにキレキレな近接格闘を見せて深見を追い詰めるのが最高に格好良い。そのクールビューティーな見た目に違わぬキレ味のアクションで興奮しきりだったんですが、演じる伊澤彩織さんはスタントウーマンということで納得です。彼女の太腿の映し方は殺し屋バトルの無情感をも表していて実にフェチティッシュ…!!

彼女達以外も全体的に自分好みのキャストをしていまして、そういう意味でも最高でしたね。『タイトル、拒絶』でいい具合のチンピラっぷりを見せていた般若さんは常に肩を怒らせすぎていて震えているという見事なまでの小物凶暴ヤクザを好演。彼の側近に鬼邪高の関ちゃんこと一ノ瀬ワタルくんで、またしてもコワモテなのに振り回されまくる災難な役が可愛い。
殺し屋連中でもインディーズアクションの秀作『一文字拳』以来、応援している茶谷優太くんが出ていたのが嬉しい。相変わらずクンフースタイルがキレキレで実に魅せてくれましたが、役柄がクソザコだったのは哀しかったな……
ヤクザの親分にはステイサムの吹き替え等、声優として有名だけど毎年のように大河ドラマにも出ているので俳優としての印象も強い山路和弘さん!!!深見の親代わりで、娘のことも心から愛してるんだけど、まあ普通にクソ野郎って役回りですが、あの頼り甲斐のある声を聴いたら誤魔化されてしまう。

俳優としてもキャラとしても良かった筆頭は前野朋哉さん演じる岡田ですね。前野さんはとある個人的思い入れから応援している役者さんでして、メジャー映画では脇役でよく見かけるんですが、インディーズ映画では大御所としてキャストされることも多く、その中間である本作ではそれにピッタリな立ち位置の宿敵として君臨。
のほほんとした素朴な蛭子さん顔から、突如銃を取り出して囲んでたヤクザを殲滅する強さと残忍さを見せるのが最高のギャップです。以後も飄々と部下に「人生は経験」と宣って人を殺させたり、慣用句が通じない中卒アホの子な部下に呆れたり、学校での殺戮をよそに蕎麦を食べに行く算段を立てたりの笑えるんだけどヤバさが際立つ場面が続き、最高の悪役になっています。

逆に波岡一喜さんはキャストから何か裏があるな!と思ったらフツーに一般人だったのでそっちは残念でしたね……いやヤクザとか殺し屋側のキャストじゃん、アンタ!!



とまあ、こんな感じにアクションとキャラクター堪能できりゃ、ストーリーはあってないもんでも良いかなって感じだったんですが、意外に練られてたのも嬉しいところ。
ヤクザの殺人機械として育てられた深見が、育ての親の言いなりになって娘を守るわけですが、当の娘は親父の言い成りになって生きる道から脱却したがっている。定められた道を歩むしか出来なかった深見は自然、その親父のようなことを娘に言ってしまうんですが、娘はそれに対して「アンタと一緒にするな」と突き放すんですよ。となると、これは一種の自立の物語にして、親殺しの話でもあるのかな、と。
娘は果たしてこの血生臭い殺人空間から抜け出せるのか…というのは広義で見ればヤクザ社会からのエスケープでもあるわけで、となると用務員として暗殺者としてずっと生きていた深見も殺人機械として囚われた自分から脱却できるのか…というのが裏テーマに。そして、深見自身の「娘を守る」動機を最後に回想で見せて終わるというのが非常に綺麗でクールでした。


一部BGMがクソデカすぎて何言ってるか聞き取れない、テンポは良い方だけどもっさりしているところもある等の難点も相応にあるものの、低予算アクション映画として流せるレベルではありますかね。
「キレキレのアクション」、「娘を守る」、「個性豊かな殺し屋集団」、「組織のボスが声優として著名な役者」という共通点繋がりで、ゼロレンジコンバットアクション映画の傑作『RE:BORN』が近しい感じかな。流石に拓さんのキレキレすぎるアクションには及ばないものの。とは言え、まだまだこういう低予算アクションを日本でも作っていって欲しいなァって想いは強く、今後も頑張っていって欲しいですね。

オススメ!!