タケオ

マルコム&マリーのタケオのレビュー・感想・評価

マルコム&マリー(2021年製作の映画)
3.4
 「映画(をはじめとした映像メディア)」は本来的に「覗き見」としての性質を持っており、『裏窓』(54年)や『血を吸うカメラ』(60年)など、その性質を追求しようとした作品は数多く存在する。カメラフレームが存在しないはずの視点として機能することで、鑑賞者は本来見ることができないはずの「世界」の一部を垣間見ることができるのである。
 『マルコム&マリー』(21年)は、コロナウイルスが猛威を振るう中で改めて「映画の在り方」を探究しようとした、ある種の「実験映画」である。本作の舞台は主人公2人の「自宅」であり、それはつまり「2人だけの世界」だ。106分の間、主人公2人はひたすら怒鳴り合い、罵り合い、そして愛し合う。本作が赤裸々に描き出すのは主人公2人が「自分たちの世界」でしか見せることのない「真の姿」であり、その「外」に生きる人間が垣間見ることができないはずの極めてパーソナルなものだ。本来見ることができないはずの「世界」の一部を「覗き見」するという意味において本作は、映画の本来的な「性質」に極めて忠実な作品だということもできるだろう。
 コロナウイルスの世界的な流行が「映画館で映画を鑑賞する」という常識を脅かしつつある今、「Netflix」「Amazonプライム」をはじめとした動画配信サービスの登場によって「映画の在り方」は少しずつ、しかし確実に変化しつつある。動画配信サービスは「映画館」ではなく「自宅での鑑賞」を前提としたメディアの新たな形態だ。そんな動画配信サービスで改めて「映画の在り方」を探究しようとした『マルコム&マリー』が「自宅」を舞台とした作品となったことを、ある種の必然としてみることも可能だろう。「自宅」という極めてパーソナルな世界にも、豊かな「映画の可能性」は常に潜んでいるのだ。
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