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クライ・マッチョのArdorのネタバレレビュー・内容・結末

クライ・マッチョ(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

ユナイテッドシネマとしまえんにて鑑賞
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 見てる間ずっと多幸感に満たされていた。イーストウッドの映画は僕の生理に抗うことなくゆっくり寄り添う時間が流れていていつも信頼して見られる。
 「グラン・トリノ」とは対照的な父子の物語。というか、アナザーストーリーのようなものだ。「グラン・トリノ」のモン族の男の子も本作のラファエルも不完全だけど存在だけで愛らしい、無骨なイーストウッドが絶対息子として可愛がるだろう感じに満ちている。「グラン・トリノ」ではより立場や性格の弱い息子に死に様を見せることで父性を見せつけたが、ラファエルには選択肢を与え、自分の幸せを掴む。どちらも素晴らしく、愛おしい映画。
 イーストウッドの映画はトリッキーなことをせず、ゆったりと時間が流れ、観客各々のことを考える時間を与えてくれる。この映画は、ラファエルの冒険心や未来への希望と老いたマイク(イーストウッド)が幸せを再び掴むまでを描く。ドラマチックなことはさして起こらないが、ふんわりと上記のようなことを考える。寓話的でもある。
 マルタもとても素敵で、これは誰でも好きになるだろう、という感じ。
 ラファエルは今後なにか困ったことがたくさん起こるだろうけど、僕は観客はマイクに同一視して、彼を見守るし、困ったら助けてあげるだろう、と。
 まあ、一言で言うと、(僕は独身者だけど)息子が欲しくなるわ!という映画。
 でも一方で、残酷な面に思いを馳せると、マイクもマルタもラファエルは自分の息子じゃないから、彼の決断で本当の父親のところへ行ってしまう。その決断を見守るところまで、息子のように支えるが、それまで。二人の失った子どもは帰ってこない。でも二人は新たなパートナーを見つけた。とても良かった。
 また、「グラン・トリノ」と同じところは、どちらのイーストウッドも老いるまでに得た職能がそれぞれの映画の、"息子"やその周りを助けるところ。例えマイクのようにこだわり続けた「強さ」に無意味さを感じていても、職能だけは必ず役に立つ。老いることによる幸せの一つの形を提示してくれる。
 
 
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