平野レミゼラブル

ナタ転生の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

ナタ転生(2021年製作の映画)
4.3
【風火輪をバイクの二輪に変えた近未来パンクでナタ爆誕!!中国アニメ史の勢いを今こそ見よ!!】
ナタ太子と言うと中国道教で崇められる少年姿の戦神。両脚に「風火輪」を付けて空を飛び、水を操る「混天綾」という赤い布を駆使したかと思えば、火炎を噴く「火尖槍」を振り回して辺り一面を焦土と化す…と言った具合に数々の宝貝(パォペェ)で大暴れする暴虐の悪童です。
一度はその苛烈さで龍神にまで喧嘩を売って怒りを買い、自害に追い込まれますが、蓮の花から転生して復活。以降はその武辺を殷国との戦いに費やして活躍した……というのが『封神演義』におけるナタの概要。
他にも『西遊記』では天界で暴れる孫悟空を抑えたり(負けたけど)、その後旅に出た三蔵法師一行を影ながら見守る役割を担ったりと、中国では子供の頃から皆が親しんでいる超有名キャラクターです。

当然映画においても何度も題材になっており、古くは1980年のアニメ映画『ナーザの大暴れ』がカンヌに出品されましたし、最近でも『羅小黒戦記』で属性モリモリの強キャラ・ナタのモデル(作品の世界観からして本物のナタの可能性も十分ある)にもなっています。
僕も色んな創作作品でナタ太子の知識は得ていましたからね。特に『羅小黒戦記』で登場した時は興奮しきりでしたし、次回作ではナタきゅんがメイン張る予定だそうで超楽しみですよ!!

んで、本作『ナタ転生』でのナタはというと、権力者によって水を支配された近未来ディストピアでバイクを乗り回している健康優良不良青年の李雲祥に転生したという設定!かつて空を飛ぶために両足に装着した風火輪はバイクの二輪に姿を変え、龍神に喧嘩を売ったその胆力は街を支配する闇の権力者に対する反体制となって立ち向かう!!

もうね、画とアクションの迫力がとんでもないんですよ!!3DCGアニメなんですが、CGであることを存分に活かしたダイナミックなバイクレースが繰り広げられる冒頭から迫力満点!!打ち捨てられた工場跡地みたいなレース会場のディテールも良ければ、そこを縦横無尽に跳ね回り駆け抜ける赤色の流線形のバイク(スッゲェー金田バイクっぽい)もクール!!この時点じゃ、雲祥も普通の人間なんですが、バイクアクションだけで興奮しまくっちゃいます。

その後、物語が進むにつれて雲祥に襲いかかる敵も現れますが、そいつらの戦い方が多種多様。氷の槍を飛ばしてくる「超能力」や、怪物に姿を変える「妖怪変化」、機械製の義手や義足などの「サイバーメカニック」に、デッカイ鉄扇というロマン武器による「武侠」……とアクションの幅が非常に広いです。おまけにメカシャークが現れる「サメ映画」文脈も完備していたのは笑うしかない。
対する雲祥もナタ由来の炎の能力や、失われた宝貝(パォペェ)代わりに鎧をDIYしたりして迫り来る強大な敵たちに対応。謎の仮面の男を師匠と仰ぎ、転生者としての戦い方を伝授される一連の修行シーンなんかは、やっていることやテンポが「カンフー映画」そのものでニヤっとさせられます。
終いにゃ、転生したナタ本人が巨大なビジョンを伴って背後に現れる「元神」という、まんま「スタンド・バトル」みたいな光景もあって、ジョジョラーとしてはテンションも最高潮!!!!
これら全てを超高品質かつド迫力な3DCGで表現してくれるってのが何とも豪勢。絵柄こそ『キングダム』の原泰久先生のような劇画ちっくでクセは強いんですが、中身に見合った骨太の作画ではあります。


こう本作がやっていることを列挙していくと『AKIRA』、『ジョジョの奇妙な冒険』、『スプリガン』、『アイアンマン』、『マッドマックス』、『幽々白書』、往年の武侠・カンフー映画等々と古今東西の色んなヲタク作品を詰め込んでいった感じがあります。同じ中国アニメの『羅小黒戦記』同様に、ただただ自分の「好き」をこれでもかと詰め込んで展開していく闇鍋方式。
しかし『羅小黒』もそうでしたが、『ナタ転生』もこれらの作品から得たであろう影響を完全に自分のモノにしていまして、見事に本作でしか味わえない「独自の味」に仕立てています。本来なら雑多な味となるところに、「運命に反逆したナタの物語」という一本芯を通してしっかりまとめた感じ。
そもそもの物語の下敷きにしている『封神演義』が素晴らしいってのは勿論ではあるんですが、それでもそこに「近未来パンク」な世界観(サイバーともスチームとも言い難い感じなんで便宜的にそう呼びます)を貫き、巧くミックスして成り立たせている手腕が素晴らしいです。

作品の盛り上げ方もちゃんとヲタク心を心得てまして、出てくる敵というのも雲祥=ナタ同様の転生者!!まあ、日本人からすると東海龍王、三太子敖丙、巡海夜叉、彩雲仙子とかなんじゃらホイって感じではありますが……全員『封神演義』の本筋以前の人物、謂わばナタが転生する前の「ビギニング」にだけ出てくる脇役なんで物凄いマイナーなんですよね……
ただ、一応前述の超能力やら妖怪変化やら機械化やらのギミックを持っていて、それぞれカッコよく、多彩な魅せ方をしてくれて飽きることがないのは嬉しいところ。むしろ知名度ゼロだからこそ、何も事前知識を気にすることなく楽しめると考えた方が良いです。
あと一人だけ、日本人ですら「お前どう考えてもあの人だよね……?」っていう知名度最強の有名人っぽいのまでいますが、その正体は劇場で確かめてみよう!!

僕としても凄く好きな要素に溢れていて、劇場出る時には満面の笑みだった作品ではあるんですが、ちょっとした難点もあるっちゃあります。
次々襲ってくる敵に対処するって状況になる為に、あっち行ったりこっちに戻ったりとぐるぐる同じ場所を回っているように感じるところはあるし、仮面の男が雲祥と敵組織の両方に通じているって展開なんかは必要あったのかってくらいの無意味設定。勢いマックスで突き進む作風の割には、この辺りに煩わしさがあります。
あと、これは個人的な好みではあるんですが、後半になるにつれて宝貝&元神によるゴリ押しバトルになるのもちょっと不満。僕が一番興奮したバイクアクションが終盤はほぼ空気なんですね。もっとバイクと超常能力を合わせた独自アクションも見てみたかったなっていう。まあ、なんか続編も匂わせている感じなんで、そこら辺は以後期待ってことで!!

最後にちょっと不満点も言いましたが、細かいこと抜きに超美麗CGによるド迫力アクションと、意外にエグい展開もある骨太の近未来パンクな物語を楽しむが吉ですよ。
やっぱり『羅小黒戦記』に通じるところのあるヲタクパッション溢れた作品なんでね、作風はまた全然違うから「羅小黒戦記好きな人にオススメ!」ってワケでもないんですが……「羅小黒戦記の根底に広がるヲタクドリームが好きな人にオススメ!」とでも言っておきましょうか。

オススメ!!



余談ですが本作のエンドロールの間にクリフハンガーや、別作品の予告も入ってます(エンドロール中に「まだあるよ!」って出してくれる親切設計)。
その予告の一つが今夏公開の3DCGアニメ『白蛇:縁起』なのは良いとして、もう一つがアレってのはもしやこれユニバース構想有りってことですか!?
パンフでアニメーターの入江泰浩さんが「中国にマーベルが爆誕した」っておっしゃっていましたが、もしやもするとこれ本格的に「封神演義ユニバース」の始まりかもしれん……となると、一見無関係そうな『白蛇:縁起』もゼッテェー無視できない作品になりますね……!昨年の『羅小黒戦記』から引き続いて中国アニメ沼にハマってしまうかもしれん……!!

余談に余談を重ねますが、本作も『羅小黒戦記』みたいに吹き替え版製作して欲しいッスね。というのも、歌詞とセリフで二重に字幕出るシーンとかもあって大分目が泳いじゃって折角の映像を堪能仕切れないところがあったんで……このヲタクドリーム実現のためにみなさん劇場に観に行く投資をば是非……