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夜叉ヶ池 4Kデジタルリマスター版のMOCOのレビュー・感想・評価

4.5
「いぱらの道はおぶって通る、冥土で待てよ。
 ・・・
 山澤、僕はこの鐘を撞くまいと思う。どうだ」
「うん、撞くな、百合さんのために撞くな」

 言い伝えを信じない愚かな村人が言い伝えをないがしろにしたばかりに・・・という、たった一夜の出来事を描いた映画です。

 大正二年夏、大学教授の山澤(山崎努)は三国嶽の麓の琴弾谷(ことひきたに)の夜叉ヶ池を探しに出掛けます。琴弾谷の付近は長い日照りが続き池も川も干上がり、たどり着いた村の井戸まで水を失っていました。
 山澤は、村から離れ山に入ると川とも言えないほどの細い川を見つけ喉を潤すと、その源流を辿り、湧き水でできる水溜まりのような小さな池で洗い物をする女性(五代目・坂東玉三郎=現在は人間国宝)を見つけ話しかけます。
 目と鼻の先の村では全く水がないのに、ここに村人が水を汲みに来ないことを不思議に思い尋ねると源流は「夜叉が池」で竜が住んでいる伝説があり、村人はこの水には毒があると思っていると女性は答えます。
 山澤は後ろ姿の女性は年配者と思い込んでいたのですが、若い美しい女性と分かり驚きます。
 軒先での 百合(坂東玉三郎)と旅人との会話を聞いていた百合の夫萩原晃(加藤剛)は旅人が友人の山澤と気が付くのですが、三年ほど前から行方をくらましていた萩原は姿もみせず山澤を返します。
 山澤は家の中に萩原の気配を感じ聞こえるような大声で親友萩原の話をして立ち去ります。
 萩原は悩んだ挙げ句、山澤を連れ戻してこの三年間の話をします。

 三年前、夜叉ヶ池に調査に訪れた萩原は鐘楼守(しゅろうもり=鐘を撞く人)をする老人から夜叉ヶ池には竜神が封じ込められていて、一日に三度「明六つ(あけむっつ)=日の出」「暮六つ(くれむつ)=日没」「丑三つ(うしみつ)=深夜二時」に鐘を撞かなければ竜神がその昔に人間と交わした約束を忘れ狭き池の水を溢れさせるという伝説を聞いた直後、老人が亡くなられたため村人に鐘楼守を頼んで村を出ようとしたが、誰一人伝説を信じる者が無く諦めて村を出ようとしたが、老人の美しい娘・百合も洪水の犠牲になってしまうと思い、鐘楼守を引き継ぎ百合と結婚したのです。

 深夜にも関わらず、山澤に夜叉が池への案内を頼まれた萩原は丑三つの鐘を百合に任せ、二人で夜叉が池へ向かいます。
 その頃村では雨乞いの生け贄に百合を捧げることを決め、村人達は百合しかいない家に向かい百合は簡単に捉えられてしまいます。
 何も知らず帰宅した二人はなんとか百合を取り戻すのですが多勢に無勢、集団心理の村人達は狂気と化し・・・。百合は夫を守るために自ら命を落とし、萩原は山澤に了解を得て鐘が撞けないように「撞木(鐘つき棒)」を払い落とします。ちょうど明六つの時・・・。するとたちまち夜叉が池に大きな水柱が上がり・・・。

 原作 泉鏡花、1979年松竹制作のこの映画は永い間、権利問題の関係からDVD化されることはなかったのですが2021年に解消され今日では観賞可能になっています。当時女性から圧倒的に支持されていた歌舞伎役者の女形・坂東玉三郎が主演をされ話題になりました。
 何もあえて男性に女装をさせてという百合の主演シーンなのですが、1時間を過ぎた頃に竜の化身として現れる女形・坂東玉三郎(二役)は圧巻で、なぜ坂東玉三郎なのか?という疑問は坂東玉三郎あってこその映画と認識が変わります。

 竜の化身のお供の中に椿という役名で21才の石井めぐみさんがひときわ目立つ可愛らしさを披露しています。

 特撮力が弱い松竹が東映の矢島信男率いる特撮スタッフを招いて撮影した津波による村の水没シーンはミニチュアで行われているのですが日本映画史上No.1のできと思わせるものです。
 津波と人物の実写の合成処理も上手く、ラストには南米大陸のイグアスの滝が効果的に使用されています。
 
 妖怪も出てきて日本の伝説を扱う満足度の高い映画です。
 
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