カツマ

アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイドのカツマのレビュー・感想・評価

4.0
これはありふれたラブストーリーではない。ロマンチックかもしれないが、一筋縄ではいかない。人生は、孤独とは、そんな簡単なものではないと滔々と問うかのように。恋愛は驚くほどに複雑で、感情は迷路のように絡み合っているのだから。これはそんな沢山の事情ありきの物語。ロボットが恋人になる将来があったとしたら、人類にとってどんな未来を見せるのだろう?

今作はアカデミー賞のドイツ映画代表作品に選出され、ドイツ映画賞でも女優賞、監督賞を受賞するなど、2021年を象徴するドイツ映画と言えるだろう。監督は女優としても活躍し、最近では『シー・セッド その名を暴け』でもメガホンを取ったマリア・シュラーダー。恋愛映画であるが、機知に富み、非常に哲学的な内容。ただのロマンチックな映画では語り尽くせないほど深い命題が埋め込まれている。何しろこれはドイツ映画。ハリウッド映画とは異なる演出は淡々とだが、人の心の映し鏡となっていた。

〜あらすじ〜

ベルリンの博物館で働く学者のアルマは恋愛とは距離を置き、研究に没頭するような日々を続けていた。そんな彼女の前に現れたのが、理想の恋人として作られたアンドロイドのトムであった。アルマはアンドロイドとの恋愛に興味などなかったが、アンドロイドの恋愛被験者として過ごせば、研究費を工面してもらえるという条件を呑み、渋々トムとの共同生活を了承した。トムはドイツ人女性のほとんどがメロメロになるであろう甘い言葉を連発し、ロマンチックな演出でアルマの気を引こうとするも、アルマはそういった大袈裟な演出が大嫌い。人間とアンドロイドの恋が成就する気配を予感させることはなかった。が、アルマの孤独が少しずつ露わになるにつれ、トムはその空洞を埋めていくような行動を取る。僅かではあるが、アルマはトムに心の拠り所を探すようになっていき・・。

〜見どころと感想〜

一見、中年女性とロボットの甘くてトロけるラブストーリー??と思いきや、そんなこちらの予想を軽く置き去りにする冷静かつ情熱的なテーマを内包する作品である。もしロボットが恋人になる未来が来たらどうなるか?という本当にあるかもしれない未来を仮定した上で、そこにシリアスな課題を突きつける。とはいえ、それでも求めてしまうものは仕方がない。人間の説明できない部分を繊細なタッチで上手く映像化して、断定的ではない表現方法は非常にヨーロッパ映画っぽかった。

主演のマレン・エッゲルトは『まともな男』への出演が記憶に新しいドイツ圏の女優で、過去には『es』への出演経験もある。そんな彼女のパートナーとなるアンドロイド役にはイギリス人のダン・スティーブンスを抜擢。『美女と野獣』の野獣役でお馴染みの彼だが、ロボット役もお手のもの。視線の投げ方や顔の角度、鋭角的な所作など随所にアンドロイドっぽい動きを織り交ぜ、不思議とリアリティのある役作りを実現させていた。そんな二人を繋ぐ役柄として『ありがとう、トニ・エルドマン』のサンドラ・フラーが登場。出演俳優が多くはない分、主要キャストの存在感はとりわけ際立っていた。

ロボットは果たして人間の孤独を癒してくれるのか?確かに癒される人もいるだろう。だが、そうでないケースだってあるかもしれない。そんな様々なパターンに言及しつつ、やっぱり理想のパートナーにロマンチックを演出されたら、心は何処かで疼いてしまうという人間のさがにも上手く触れていた。淡々としているけれど、鹿のシーンなどはとてもロマンチックで幻想的。唐突にメッセージだけをぶつけてきて終わってしまうラストも、個人的にはだいぶ好みでした。

〜あとがき〜

もしこの映画が日本でリメイクされたら、恐らく今作のメッセージが何一つ反映されないオーソドックスな恋愛映画になることでしょう。中年女性ではなく、若い女性が主人公で、アンドロイドはアイドル俳優が務めることでしょう。ですが、これはドイツ映画。ヨーロッパ圏の映画らしくメッセージ性の強い現実的な作品へと昇華されています。

でもしっかりロマンチックな部分もあるんですよね。そういったアーティなシーンが個人的には好きだったかも。少しビターな大人のお話し。こんな恋愛映画もたまにはいい、かな笑
カツマ

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