シムザスカイウォーカー

ボーはおそれているのシムザスカイウォーカーのネタバレレビュー・内容・結末

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

アリ・アスター監督、またも大傑作をありがとう🥹🥲😇😭

最悪の事態が常に脳裏に浮かび続け、馬鹿らしいと思いながらも、最悪の事態が頭にこびりついて離れない。

あぁ、分かります。経験あります。私です。私のことを言ってますね?アリ監督あなたもなんですか?それはそれは………(固い握手🤝)という気持ちで観ておりました。

最悪の事態が続くのだけど笑えて、他人の悲劇は喜劇になるんだなと。

観た人の感想見てると、3時間ってことを強調する感想が目立つ。苦痛が長く続いて辛かったのかな?私にとっては、本当に楽しくて楽しくてあっという間に終わった感覚。

ボーは恐らく不安障害を患っているのだろう。精神科医から処方された薬は副作用についても調べて、調べまくって、些細なことも副作用を疑い、最悪なことを想像しているからか体調は悪くなり副作用を呼び寄せる…経験あります🙋‍♀️←

母なる呪縛に囚われるボー。母のモナもまた不安障害を患っていたのでしょうね。不安障害の親に育てられた子どもの有病率は10〜20%という説もあるくらいなので(ネット情報)モナの影響が少なからずあったのではないかと推察。

『ヘレデタリー継承』は魔王、『ミッドサマー』は女王、今作は精神疾患が継承された。逃れられない運命を"継承"するのがアリ監督はお好きなようで。

ボーは足に繋がれた鎖をみずから断ち切り逃げ出すが、これはシャンデリアの鎖が切れて母に直撃するという出来事に繋がっているように感じた。シャンデリアが落ちた先に居たのは母ではなく使用人であるという、さらなる悪夢よ。断ち切れない連鎖が精神に重くのしかかる。

ドゥニ・メノーシェ演じる退役軍人のジーヴス。こんな訓練された大男が突っ込んできたら最悪。肉弾戦ですら敵わないだろうに、なんで手榴弾持ってるの!!??いつの間に足に発信機付けた!??最悪に最悪を重ねていて最高。笑

トニの激しい自傷行為も痛いくらいに気持ちが分かる。両親は医師で博愛の心を持ち慈善活動(ジーヴスのケアやボーの看病)にも積極的。一見人格者に見える彼らは、トニの感情や状況に一切寄り添わない。愛情や安心を得られず安全基地を作ることができないままに育ったトニは、両親からの精神的虐待に反抗的な態度を取ることで自分を守っていた。

社会的信用のあるこの手のタイプの両親は本当に厄介ですよ。外に助けを求めても"そんな人のはずがない""考えすぎ"と大人たちには取り合ってもらえないから、見過ごされアダルトチルドレンまっしぐら。

"愛されたい"という気持ちと愛されていない現実の溝を埋めるために、"愛されないのは自分が価値がない人間だからだ"と自己否定し矛盾を解消しようとしてペンキを飲んだのではないかな。私が1番感情移入してしまったのは間違いなくトニ。

もう本当に本当に最悪が更新されていくのだけど、極めつけは精神科医が母とズブズブだってこと。勿論、会話は筒抜けで、一人暮らしの部屋もグレースとロジャーの家も監視下にあった(母の豪邸の螺旋階段に貼られていた写真、グレースとロジャーの家監視カメラ)。心理士の守秘義務は!!??

成功者であるモナにとって、息子と夫だけが思い通りにならない存在だったのだろう。ここからは私の想像に過ぎないけれど、夫は浮気をして出て行ってしまったのではないかな。完璧な生活を求める母にはこの上ない苦痛だったでしょう。そしてモナはボーに夫を重ね、性行為や結婚をしないように言葉で縛り付けた。それは最早、呪いの域。絶対に自分の元から離れられないようにと……。

底なしに愛情を搾り取っていく子どもという存在。母性を持ち合わせていない人間にとっては、さぞ恐ろしかったでしょう。さらには母性が女性の標準装備と思われていることも、モナを苛立たせていたのではないだろうか。

2年連続で同じプレゼントをしたボー。強いストレスがかかると記憶が抜け落ちたりするから、その症状?とも思うけれど、そもそもボーが母への関心や愛情がなかった可能性もある?

「母に愛情を返さなければ」という言葉がとても印象に残っている。モナは盗聴した録音を聞いて喜んでいたけれど、"返さなければ"という言葉には義務感のようなものが漂う。両者の言葉や反応には、家族は慈しみ合い、愛し合うものという家族の呪縛を感じる。お国柄もあるだろうか?家族だろうと相性の悪い人間同士はいるはずなのに…

きっとアリ監督は家族を切ろうとしても切れない煩わしい関係性と思っているのだろうね。わかる、わかるよ。。