シムザスカイウォーカー

ポッド・ジェネレーションのシムザスカイウォーカーのネタバレレビュー・内容・結末

ポッド・ジェネレーション(2023年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

当初はポッドでの育児に反対していたアルヴィーも、共に過ごす時間が長くなるにつれ、徐々にポッドを受け入れてゆく。ハーネスを着けて職場の大学にも連れ立つし、話しかけたり、ご飯の管理も完璧。次第にポッドに愛着持つようになるが、その姿に今度はレイチェルが焦りを覚えることになる。

女性には母性が標準装備されていて、男性は父性を後天的に獲得しなければならないというような、根拠のない暴論へのアンチテーゼか。育児をしない男たちへの挑発か。

監督のソフィー・バーセスはインタビューの中で「女性の皆さんに自問自答してほしいです。自らを投げ出してしまう覚悟はあるのか?」と問いかける。

女性たちは結婚すれば即「子どもはいつつくるの?◯歳までに産まないと」と、子どもを作らない選択肢はないようなプレッシャーを受ける。レイチェルも例外ではなかったのではないかと、描かれなかった部分を想像する。

レイチェルは本当に子どもが欲しかったのだろうか。少なくとも覚悟はできていなかったのかもしれない。

アルヴィーの父性は、彼以外の男性たちが前側でハーネスを装着することを嫌がり背中側で装着する中、前側に着けることを選ぶ描写からも確認できる。友人女性たちから怪訝な眼差しを向けられても、気にもとめない。(気付いてない!?)

妊婦姿というのは女性らしさを象徴する姿のひとつであり、男性たちが妊婦姿になるというのは抵抗感があるものなのかもしれない。さらには動きやすさにも大きく影響するだろう。靴下を履くことも、足の爪を切ることすらままならず、仰向けで眠ることすら難しい。背中側で装着する"選択肢"があるならば、私も背中に背負いたいし、眠るときには取り外したい。

アルヴィーは"自然な妊娠・出産"を望むけれど、自然な妊娠・出産ってそもそもなんだろう?今や日本では4組に1組が不妊治療の検査や治療を受けている。4割近い妊婦が促進剤を使い、会陰切開、人工破水は医師の処置によるもので、2割を超える妊婦が帝王切開をする。西洋医学ベースの出産は自然とはかけ離れている。

手術の際に「麻酔は使わない方がいいんじゃない?そういうのは自然な方が」とは言わないのに、出産に関しては痛みがあることを有り難がり、無痛分娩への忌避感があることも深い謎だ。

アルヴィーがポッドを子ども部屋に運ぶ途中に躓くのは、妊婦の身体的不自由さを暗示しているようでハッとした。女性は10ヶ月間もの間、躓いて流産してしまわないかと日々神経を擦り減らすが、その間、男性にはその心配がないのだ。

同僚のアリスは「ポッドが家にあるとストレスだから」と妊娠後期には子宮センターに預けてしまう。軽薄にも思えるが、妊婦のストレスは計り知れない。妊娠経験がない私は、ポッドという形になるまでそんな当たり前のことすら意識の外だった。

初期流産は医学が進歩した現代においても、2割程の確率で起こるが、その殆どが母親が原因ではない。こうした知識がないと流産の責任はたいてい母親が負わされることになる。アルヴィーを通して、あまりにも女性に降りかかる身体的、精神的な負担が多いことに気付かされた。

福利厚生でポッドの費用を負担してもらえることがレイチェルの背中を押した部分もあるだろう。当初はその提案が素晴らしいものに思えたのに、後半になるにつれパーソナルな部分を他人がコントロールしようとしていることに不快感を覚えるようになる。

AIによって常に最適化されたオフィスでは、生産性やストレス値をチェックされる。上司は働く姿や個人の意思ではなく、数値化された情報により評価をするし、それを元にレイチェルのメンタルを先回りして気遣う。そこに快適さを感じることもあれば、AIが判定した"最適な人材"という範疇に押し込められる居心地の悪さを感じる。


対話を元にレイチェルを理解しようとするアルヴィーと、数値を元にレイチェルを理解したつもりの上司。AIは最短ルートで最適な結果に導くけれど、信頼関係は時間をかけなければ築き上げられない。

こうなってくると、恐らく上司はレイチェルの人生を考えてポッドの利用を勧めたのではなく、AIが"最適なタイミング"を判定して、子どもを持てるように促していたことが容易に想像がつく。

資本主義を突き詰めた先には、女性たちの体を他者がコントロールしようとする社会があることに絶望する。日本では都知事選に出馬したホリエモンが、公約として『低容量ピルで女性の働き方改革』を掲げ大バッシングを受けた。男性が女性の体をコントロールしようとする醜悪さ、副作用への無理解に、私も当然反対の立場を取った。

子宮センターのCEOも男性である。何故、男性たちは女性の体をコントロールしたがるのだろうか、、

センターでは子どもの性別を"選ぶ"ことができるという。ここまでくると、トロフィーワイフならぬトロフィーチャイルドだ。選べたとしたら、男女の比率はどう変化するのだろう。ジェンダー平等が進んでいない日本のような国では男性が増えるのかもしれない。

エンドクレジットで子宮センターのCEOが最後に言うセリフが最大の皮肉。この先の未来にどんなことが待ち受けるのか。…赤ちゃんと親のマチアプ!?

監督のソフィー・バーセスは自身が娘を妊娠した時、よく奇妙な夢を見ていたという。その夢を夢日記に書きとめていたものがこの映画の着想源になったという。ゆで卵を産む夢、スーパーで子どもを買う夢はその当時に彼女が見たもの。

AIは夢を見られない。人間を人間たらしめるものは夢を見られることなのかもしれない。だとすると、ポッドから生まれた子どもたちは………!!