平野レミゼラブル

Ribbonの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

Ribbon(2021年製作の映画)
4.1
【破壊と再生、RibbonとReborn】
女優ののんが「創作あーちすと」を標榜してアート活動に勤しんでいるのは把握しておりましたが、作品を観るのはこれが初めてです。一時期、事務所トラブルによって能年玲奈の名前を名乗れなくなるなど紆余曲折ありましたが、結果として音楽に絵画と幅広い表現方法で世界を広げている姿を見ると良かったなァと感じてしまう。
映画監督としても配信限定作品ながら、2019年に『おちをつけなんせ』でデビュー。そして、本作『Ribbon』が初の劇場公開監督作品となります。

コロナ禍の苦境を映し取った作品では『茜色に焼かれる』がありましたが、本作でのんが着目したのは正にコロナで創作活動の場と自由を喪ってしまった美大生。授業内容がリモートオンリーとなるばかりか、友人と語らい、サークル活動に勤しむキャンパスライフという人生で一番楽しく自由な青春を奪われてしまった苦しみは、想像するだけで胸が痛くなります。
創作あーちすととして再起した経緯を持つのんが、その取り返しのつかない悲惨な状況を汲み取り、彼らの鬱屈を作品を通して晴らそうと試みた着眼点が、もう素晴らしい。


のんは監督・脚本・主人公のいつか役を兼任しており、その熱意の程が窺えます。共演者には、親友の平井に『あのこは貴族』の山下リオ、公園で出会う男性・田中に『ノイズ』の渡辺大知、妹のまいに『のぼる小寺さん』の小野花梨。また、いつかの母と父には前監督作品『おちをつけなんせ』同様に春木みさよと菅原大吉。

榎木孝明や片岡鶴太郎に香取慎吾等々、俳優業の傍ら芸術方面にも成果を上げている人は多いし、俳優兼映画監督なんてその比じゃないレベルに多いですが、正直言うと心のどこかでナメているところはあったんですよね。だから、コロナ禍で苦しむ美大生に着目した時点で一定の評価をしてしまいましたし、映画自体の面白さとかは度外視しようって心づもりで観に行きました。


しかし、これはシンプルに面白い!!
コロナ禍という閉塞的な舞台にありながら、どこかとぼけた雰囲気がユーモラスで楽しく、それでいながら世の中が抱える苦しみをしっかり描き出す演出力がずば抜けています。時折宙を舞い、形を変えるリボンの表現こそ抽象的ですが、それ以外の描写はダイレクトなエンタメ路線でわかりやすく、何より終盤コロナ禍の世相に対してガツンと蹴りを入れる心地好さよ……

新人監督の作品としては堂々たる風格であり、今後の彼女の創作あーちすととしての活動も続けて追っていきたいと思える作品となっています。『Love Letter』の岩井俊二監督が冒頭に出るばかりか予告編製作も担当しているのは、決してのんがオマージュ元であると明かしたからだけではなく、彼女の将来に純粋に期待しているからなんだろうなあってのがよく伝わってくる。

……というか、本作のリボンのCGを担当したのは『シン・ゴジラ』の樋口真嗣&尾上克郎、PR動画【映画「Ribbon」応援スペシャル映像】「映画と生きる 映画に生きる」の三篇(炎篇、雨篇、風篇)にも、緒方明、犬童一心、片渕須直、白石和彌、市井昌秀、沖田修一という綺羅星の如き監督メンバーが出演していることからも、のん監督の将来性と人望がいかに買われ、この企画に賛同されているかが窺えます。PR動画はそれぞれ岡本喜八、深作欣二、今村昌平といった邦画界のレジェンド・オブ・レジェンドの名言も朗読され見応えがあるため、映画と併せてオススメします。


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破壊と再生、リボンとリボーン『Ribbon』感想
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