円柱野郎

煙突の見える場所の円柱野郎のネタバレレビュー・内容・結末

煙突の見える場所(1953年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

千住のお化け煙突が見える東京下町を舞台に、長屋に住む夫婦とその下宿人たちの姿を描いたドラマ。
ある日、夫婦の妻の子だとする手紙と共に置いていかれた赤ん坊によって、彼らの間で人間模様がギクシャクしたり纏まったりしていく様が描かれていく。

終戦からまだ8年という時代、庶民の生活風景がきっちり描かれていてそういう意味で興味深い。
生活空間の妙なリアルさは、映画のテーマである人間そのものと同一に重要なのだろうけど、やはり何より長屋という空間における雑音の大きさが生々しい。
隣家から聞こえる祈祷の声、ラジオの音、隣の部屋の話声。
そういう密接な共同体感が、当時の日常としてきっちり入っているのが描かれる人間を地に足着いたものにしているだろうか。
音でいえば赤ん坊の泣き声にしてもそうで、登場人物全てのストレッサーとなるその声は、しつこいほどに聞かされて観ているこっちもイライラしたりもする。

赤ん坊に罪はないとはいえ、釈然としない夫婦の対応も相まって、中盤まであまりスッキリしない展開。
下宿人が赤ん坊を置いていった男を捜索するあたりから少し話が動いて面白いとも思ったけれど、当の夫婦は、特に夫はパチンコに興じたりとその温度差はなんだろうと思うw
個人的にはもう少しテンポがよかったらな、とも。

この映画で象徴として描かれるお化け煙突(見る方向によって本数が変わって見える)のように、人間という一つの生き物でも様々な人がいるんだという揺れなんだろう。
4本の煙突、夫婦と下宿人を合わせて4人、揺れに揺れたけども再び落ち着いていくエンディングは悪くない。
円柱野郎

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