ヨーク

Blue Island 憂鬱之島のヨークのレビュー・感想・評価

Blue Island 憂鬱之島(2022年製作の映画)
3.6
本作の監督であるチャン・ジーウンの作品では前作の『乱世備忘 僕らの雨傘運動』がすげぇ面白くて感想文でもかなりべた褒めな感じで書いた気がするのだが本作『Blue Island 憂鬱之島』はまぁそこそこな感じであった。いや別につまんないわけではないし、この映画も現在の香港情勢を考える上で重要だし、何だったら今この時に重要な作品というよりも数十年経ってからの方が重要度が上がる作品だったりはするかもしれないが、一本のドキュメンタリー映画の出来としてはそこそこだな…という感じではあった。
内容としては現代中国と香港に於いてかなり重要な出来事である、文化大革命・天安門事件・雨傘運動という三つの出来事をそれぞれの時代にリアタイで生きた実在する人々を描いたドキュメンタリー作品である。香港の現状を踏まえた上でそういうドキュメンタリー映画を撮るのならもう必中で面白いやつじゃん! ていう感じはするのだが本作でいまいちだなぁ、と思ったのは上記した文化大革命・天安門事件・雨傘運動の中で文革と天安門に関しては劇中劇的な再現ドラマが描かれるんですよ。その再現ドラマを演じるのは現役の雨傘運動世代の活動家たちという仕掛けはあって、それ自体は悪くないのだが映画全体の流れとして過去の再現ドラマと現代香港での権力に対する反抗というものが立体的に交錯してこの半世紀ほどの中国の権力に対する闘争の歴史を紡ぐみたいなカタルシスにまでは到達しないんですよね。そこは単純に監督の演出力と構成力が及んでいないだけという感じなんだが、映画全体を通して過去の出来事を再現ドラマとして描くアイデアが十全に機能していないので観終えた後に散らかってるなぁという印象になってしまうんですよ。
劇中劇みたいな飛び道具を使わずにもっとストレートにルポもののドキュメンタリー映画としてシンプルな作りにした方が良かったんじゃないかなぁと思ってしまいますね。実際過去世代の活動家が今の香港に対して一言苦言を呈しながらも「でも今の俺は昔みたいな無茶はできないよ、もう落ち着いちまったからな」とかしんみり語るシーンとかは体制と迎合することの物悲しさとかも含めた人生を感じてグッとくるのだ。
まぁそういう感じで良いところもあるのだが全体の構成としては散漫な部分もあって映画の出来としてはいまいちだなぁというところもあるのだが、本作が持っているメッセージ自体は強烈に刺さるところはある。特にクリミア半島を巡る思惑から始まったところもあるウクライナ東部の紛争から地続きの現在進行中の戦争なんかは香港を巡る歴史と重なるところもあろう。
シーン単位ではすごく良いところもあって、ポスターにもある画なのだが泳いで中国本土から香港に辿り着いた老人が日課的に香港の海でスイミングをしている映像とかはすげぇグッとくるんだよな。あと本作を観た人は印象に残るだろうがラストの無音の顔のシーンね。あれは凄いなぁと思う。エンドロールに散見されるアノニマスという文字も絵空事ではないガチの現在進行形の出来事なんだなと思わせてくれるし。
そういう意味では非常に考えさせられる作品ではあるのだが映画としての面白さは『乱世備忘』と比べたらちょっと及ばないかなという感じでしたね。まぁ前作のライブ感は本当にドキュメンタリー作品としての臨場感が凄まじかったのでそれと比べると酷だなっていうところはあるのだが。
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