ぼのご

田舎司祭の日記 4Kデジタル・リマスター版のぼのごのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

なんか感情移入するところが多くて泣けてくる映画だった。静かな映画ではあるけど、たぶん響く人にはどんどん心に迫ってくると思う。

田舎町に派遣された司祭。本当に良い人なんだけど、純粋過ぎていつも真剣だから、段々と村人たちから厄介者扱いされてひたすら疎まれる。それでも要領良く出来なくて、悪意を孕んだ表面上の親切を無用心に喜んで後から傷付いたり、感動してすぐに泣いたり。
「自分の主張をする時はいつも声が震える」
「神の誓いを破るとしたら愛の為がいい」
とか、台詞も共感出来るものや突き刺さる言葉のオンパレードだった。

地主の夫人との心の交流がずっと印象に残る。
家庭はゴタゴタしているしそのうえ子どもまで失って、絶望の中で殻に閉じこもる夫人。それじゃいけないと全力で言葉を紡いでいく司祭。こういう場面に際して、他の村人だったら反感を買ったところだろうけど、夫人は真摯に対応して救済される。直後に司祭に送った
「子どもを失った悲しみが子どもの手によって救われました。子ども扱いすることをお許しください。どうかいつまでもそのままで」というような夫人の手紙と、そこから見られるふたりに芽生えた絆になにか震えるものがあった。

でも、死んじゃうんだ……。
「死ぬのは難しい 傲慢な者ほど死なない」
夫人との会話の中でこういう台詞が出た時点で、夫人と司祭が遅からず死んでしまうのは物語的に必然だった。ふたりとも純粋な人で好きだったから悲しいです。そういえば「死ぬのを恐れる者ほど死にやすい」って台詞もあって、『ソナチネ』に出てくるたけしの「あんまり死ぬの怖がると死にたくなっちゃうんだよ」って台詞連想した。

夫人が亡くなった際「夫人とのいさかいが気が遠くなるほど鮮やかに蘇った」とか、「彼女の死顔は微笑んでいてほしいと願った」とか、その感覚もその気持ちもすごくわかるな。また続けて司祭が心の中で呟く「心の平穏を彼女は受け入れた 自分に無いものを与えられるとは。空っぽの手の奇蹟だ」って言葉がとんでもなく切ない。孤独が加速していく。誰かこの人を救ってあげてくださいって思った。

先輩の司祭や昔の仲間は一応いい人なんだけど、皆それぞれ処世術を身につけていてなんとかやっていけている辺り、主人公とは完全には相容れない。最期は癌にまでなって苦しみ抜くけど、ついに悟ったのか「すべては聖寵だ」って言い遺す。自分はこの司祭みたいな行動は出来ないまでもずっと感情移入して観ていたけど、最後の最後で遠くにいった感じがした。でもだから、救われたって思っていいのかな。
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