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かそけきサンカヨウのknykeastのレビュー・感想・評価

かそけきサンカヨウ(2021年製作の映画)
3.8
公開時気になっていた本作を、アマプラ配信で鑑賞。窪美澄の短編小説「水やりはいつも深夜だけど」の映画化。監督は「街の上で」の今泉力哉。

幼い頃に両親が離婚した高校生の陽(志田彩良)は父親(井浦新)と共に静かに暮していた。遠い母親の記憶。それは淡いサンカヨウ(山荷葉)の花のように儚いものだった。 

そんな静かな日常に、父親の恋人、良子(菊池亜希子)とその連れ子、ひなたが現れる。抑圧したはずの母の記憶。新たな家族との暮しの中で、陽の揺れ動く感情が繊細に描写されていく。

「自分史上一番古い記憶って何か覚えてる?」

陽の同級生、陸(鈴鹿央士)が発した問いに、多感な高校生達の様々なエピソードが飛び交う。

感情を突き動かされた時、記憶はより深く刻まれる。ましてや人生最初の記憶となれば、心の一番奥深くに刻まれていて、どうしても忘れられない記憶なのかもしれない。

喜怒哀楽。様々な感情の中でも怒りや悲しみは厄介な相手であり、向き合う事には大きな痛みを伴う。時には重い蓋をしてしまう事もある。逃げても決して解決しない事がわかっていても。

陽にとっての陸の存在。人は何気ない会話や振る舞いで、自然と勇気づけられる事がある。ひとりでは開けられない蓋も、ふたりでなら思い切って開けられる。

開けてみると、そこには意外な風景が広がっているもの。全ては繋がっていて、そして今がある。なんだか哲学的になってしまいましたが(^^) そんな前向きなメッセージに溢れた作品でした。

主演二人は揃って「ドラゴン桜」にも出演していた、志田彩良、鈴鹿央士の二人。今泉監督らしい会話の間の取り方も良きでした。

しかし題名、読みづらいですよね。。何回読んでも頭に入ってきません(^^)

かそけきとは「幽けき」と書き、ほのかな、という意味を持つ言葉で、サンカヨウは山荷葉という雫を吸って、花びらが透明になる植物のこと。

崎山蒼志が歌う、主題歌「幽けき」も作品の雰囲気にピッタリの優しい歌声で、しっかりハマってました。

じんわり心に染み入る、とても優しい作品でした。梅雨時にしっとり見るのもオススメかもしれません。
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