このレビューはネタバレを含みます
水墨画の世界
日本の伝統技能である水墨画の魅力が詰まった、美しい作品に仕上がっています。「ちはやふる」の小泉徳宏監督作品。
青山霜介(横浜流星)は水墨画の展示会で自分の心を掴んで離さない一枚の水墨画に出会う。それは水墨画の巨匠、篠田湖山(三浦友和)の孫娘、篠田千瑛(清原果耶)の描いた椿の花だった。。
白い和紙のキャンバスに筆一本で描く芸術。そのシンプルな所作から、瞬く間に躍動感あふれる自然の営みが表現される。モノクロの世界だけに濃淡がものを言う。
墨と水が交わる瞬間。適度に水分を含んだ墨が白い和紙にジワっと浸透するさま。全てが粋で、その美しさ、潔さに魅了される。
作者との魂の対話
客の目の前で水墨画を描く様は圧巻。作者の表情や筆遣いから、強い意志や想いが伝わってくるからこそ、出来上がった作品に宿る命を感じる事ができる。
特に印象的なのが、創作の最後に、描かれた生き物の目に筆を入れる瞬間。作品に命を吹き込む瞬間に思え、鳥肌がたった。
湖山の弟子となった青山は、師匠に導かれるまま、一心不乱に線を描いていく。師匠の絵を真似て、水墨画の基本となる「四君子」と呼ばれる植物を描き続ける。
悪くはない
技法については問題ない。しかし何かが足りない。。青山は師匠からの言葉を受け、その答えを必死に探し求める。
絵の向こうに何が見えるのか
同じく湖山の門下生、西濱(江口洋介)が自然に寄り添って日々を過ごす姿を見て、青山は創作活動の本質に気づいていく。
水墨画は自然を描く芸術。自然の摂理や営みに触れる事、そして生かされている事に感謝すること。そんな事が自分の心の奥底の本当の願いや想いを呼び覚まし、自分の目にも生命が宿るのだと思います。
人はいろんな事に慣れてくると、本来持つべき、生き生きとした感情を忘れてしまうのかもしれません。
線が、僕を描く
「線」それは人それぞれ形や表現方法が違う。線を描く事を心から楽しみ、自分の心に寄り添い本質を描くこと。その「線」が世の中を、そして人の心を動かし、共感を生むのでしょう。