平野レミゼラブル

べイビーわるきゅーれの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

べイビーわるきゅーれ(2021年製作の映画)
4.5
【モラトリアムらぐなろく!人が20人くらい死ぬ『あずまんが大王』的面白さ】
まひろ「凄い!これひぐらしのヤツじゃん!」
ちさと「そう!買っちゃった~!魅音が爪剥がしたヤツ!!」
まひろ「それ詩音じゃなかったっけ?」

昨日を以て両方になり申した……

まさか映画観ていてナチュラルに『ひぐらしのなく頃に』の話されるとは思わなかったからビックリしたし、あまりにタイムリーすぎたから劇場で一人だけ声上げて笑ってしまった……
いや、だってひぐらしの爪剥がすヤツ観た翌日に、全く関係ない映画でひぐらしの爪剥がすヤツの話題出ることある???
そもそも、まず映画でひぐらしの話をする???
さらに、そもそも、ひぐらしの爪剥がしたのが魅音か詩音かを談義するこないだまでJKだった女子いる???

まあ、そんな感じで『花束のような恋をした』や『街の上で』よろしくサブカル関係の話も飛び出たりする……むしろそっちより俺に近しい斜に構えたネット世代特有の文化圏での、ゆるゆるティーン女子殺し屋コメディです。
監督は学校に集った殺し屋10人によるバトルロイヤル『ある用務員』が記憶に新しい阪元裕吾監督。そして主演のJK卒業したばかりの殺し屋コンビ・ちさと&まひろを演じるのが、同作でバリバリにキャラが立ちまくっていたJK殺し屋コンビ髙石あかり&伊澤彩織!!
そのため『ある用務員』のスピンオフのような作品ですが、殺し屋コンビの名前と性格には微妙に差異があり、監督も別人と言っているので実際別人。ヒゲオヤジやアセチレン・ランプのようなスターシステムというのが一番近しい感じがします。

本作のテーマは「明るい殺し屋映画」。殺された妻の復讐やら、殺しの業がどうとか、殺し屋になるしか道がない虚無の人生とか、兎角辛気臭いことが付きまとう「殺し屋映画」のジャンルイメージを一新し、ポップかつ可愛らしくゆるゆるな雰囲気にすることを目的にしています。
『ある用務員』もJKアサシンコンビを始めとした奇妙奇天烈かつ個性豊かな殺し屋たちが集う絵空自めいた作品ではありましたが、作品自体のトーンは暗めで物語内容も徹頭徹尾シリアス。やはり「殺し屋映画」としての宿命からは逃れられず、JKアサシンコンビも重苦しい空気の中に飲み込まれてしまいました。

しかし、本作の空気は終始カラッとしており、うら若き乙女2人がなんで殺し屋稼業をやっているのかといった背景すら窺い知ることはありません。ちさとにしろ、まひろにしろ、殺し屋としての仕事をバイト感覚でこなし、手に入れた大金で特に羽目を外して身を崩すこともなく、部屋でダラッとゲーム実況を観たり、スマホを弄ったりと気ままかつダラダラ過ごしているという。
2人の抱える悩みというのも、高校卒業後に殺し屋稼業の隠れ蓑にしないといけない表の仕事の進路……というモラトリアムが終了する若人であれば誰でも直面する普遍的な悩みという。
となると、これは『ある用務員』で殺し屋映画の業に巻き込まれてしまったいたいけな女子2人の救済であり、そして彼女たちが直面する社会の厳しさへのある種のリベンジマッチでもあるワケです。

そしてこの復讐というのは、2人がダラダラと駄弁り、ぐだぐだとイチャつき、くだらないことで喧嘩したり仲直りしたりする何でもない幸せを享受するだけで成り立つという!!この構造が中々革命的でして、本筋がどれだけゆるゆるふわふわしていても、ちゃんとそこに意味がもたらされるんですよ!!彼女たちが平和ならいいだろ~!むしろこれが観たいんだろ~!っていう。
完全に文脈は日常系ゆるふわアニメのそれでして、人が20人くらい死ぬ『あずまんが大王』って感じですね。両の手と足の指でギリギリ足りないレベルの人死には出ているが、まあ些細なことです。

そんな作風だと重要になるのは、その日常を送る女の子2人の魅力なんですが、ご安心ください。滅茶苦茶可愛いです。
ちさとにしろまひろにしろ、思考や行動は刹那的で生活は自堕落、他者に対してスレていて辛辣というネット社会に毒された今ドキの若者感に溢れているんですが、言う事は全て本音なんで根っこが素直なワケです。
だからこそ、2人がわちゃわちゃ戯れているのも全て真実のやり取りであり、このコンビの日常がとてつもなく愛おしくなってしまう。ケーキを冷蔵庫に入れるシーンとかの撮影が顕著でしたが、観客は終始この2人のゆる~い日常を覗き見している感覚でして、主演2人をアイドルと捉えた一種のファンムービーと言えます。

また、2人とも対人関係に難を抱えている設定も光っています。
まひろはコミュ障で引っ込み思案。そのクセ、馬鹿正直でサラッと暴言を吐いて自爆しては自己嫌悪の負のループに陥る「陰」のキャラです。
ちさとは正反対で、誰とでもすぐに仲良くなれるし環境にもすぐに適応できる「陽」のキャラですが、そのぶん気分屋で熱しやすく冷めやすい。そして口より先に手を出す悪癖があるため、折角築いた関係性を自らブチ壊しつつ次に進んではまた台無しにする破壊神気質という。
2人揃って自他ともに認める社会不適合者であり、それがモラトリアムという人生の転換期で尋常じゃないくらいの焦燥感や不安となって内に溜まっていく。そのストレスは2人の仲が次第に険悪になっていってしまうドラマになるし、ぶち当たった閉塞感をどうにかするカタルシスにも繋がるのです。基本的にゆるふわ日常系であることに変わりはないし、2人の行動も極端ではあるのですが、誰もがどこかしらに共感を抱けるようにはなっている。その上で、結末で一気に発散して満足させるため、ストーリーの奥行きも意外としっかりとしています。

この2人以外のキャラも魅力的で、ヤクザの親分・浜岡をネオVシネ四天王の一角・本宮泰風氏が演じている時点で貫録十分……と思いきや比喩表現が一切通じなかったり、「ヤクザも価値観をアップデートさせて女性の社会進出を目指さなきゃいけない」と宣いながらメイド喫茶をシノギにしようとする全くアップデート出来てない姿勢などかなりアホの子なのでズッコケる。そのクセ、そのよくわからない沸点でバイオレンスを巻き起こし続けるのでタチが悪い。ある意味、強化版ちさとって感じです。
他にも浜岡の息子に『HiGH&LOW THE WORST』の泰清一派の清史の方(うえきやサトシ)が相変わらずの億泰的ガラの悪さを見せたり、工藤D(大迫茂生)がやっぱり見栄張って痛い目見たりとサブキャラを演じるバイプレイヤーズもいずれも魅力的。
冒頭に書いたひぐらしネタを始めとしたサブカルネタも豊富だし、昨今の流行を巧くブッ込んできたギャグにも声上げて笑いました。

そして何より忘れてはいけないのが、伊澤彩織さんと三元雅芸さんという日本を代表する一流の殺陣師2人がアドリブ込みのガチンコでぶつかり合う最高のアクション!!
2人とも動きがキレキレもキレキレで、ガンガン殴り、蹴り、組み付き、体勢をグルングルン変えまくる激しい肉弾戦を零距離で繰り出していくのでもう大興奮ですよ!!こんな密着体勢で人間動けるワケないでしょ……って思い込みを軽く超える神速の技のやり取りが滅茶苦茶です。
本作の「キレキレのアクション(掴み)→ゆるゆるの日常(本筋)→キレキレのアクション(カタルシス)→ゆるゆるの日常(エピローグ)」という構成も白眉で、ゆるふわ日常系とキレキレアクションの融合を見事に果たしています。


いや、本当なんか本作に関しては、それこそ『ある用務員』観てJKアサシンコンビにキャーキャー言ってたため、公開が発表された時から期待していたんですが、なんか実際に観たらそれ以上にハマっちゃいましたね……
これは舞台挨拶付きだった初日の空気感によるものも大きく、キャストみんなでワイワイしているあの雰囲気ってのはいいもんですね……。コロナ禍で割と減ってきちゃいましたが、こういう空気の醸成って重要なんですよ。それこそ本作は一種のアイドル映画ですからね。アイドルの追っかけ的な楽しみが価値として付与されるのはデカいですよ。
さらに『ベイビーわるきゅーれ』は福利厚生もかなり充実しています。発売されていたパンフに登壇者のサインが書かれていたこともなんですが(流石にこれは初日限定かな?)、なんとこのパンフ、髙石あかり&伊澤彩織コンビが歌う挿入歌『らぐなろっく』と2人の日常を描いたドラマCDが3話付いているという。マジのアイドル映画とかアニメ映画の豪華版仕様じゃねーの!!(値段は驚きの1000円!!)
実際、今回伊澤彩織さんはドイツでお仕事とのことで来られず、折角一番の推しになったにも関わらず残念に思っていたのですが、このドラマCD聞くことで「あんなにキレキレな動きしてるのに喋り方ゆるゆるで、あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~」と浄化されましたからね。

とはいえ、映画は映画。評点に関しては厳しめにつけさせてもらいますよ!!
まず、俺よく考えると本作にそこまでハマってないもんな。今日一日中『らぐなろっく』を延々作業用BGMとしてリピートさせてるけど全然ハマってない。ドラマCDも全話通して10回くらい聞いてるけど全然ハマってない。
ぐぅ……ハマってない……ハマってない……心を鬼にして……最終的な評価は………


超絶オススメ!!!!!!!!

あっ、友人に布教成功したんでまた観に行きまーす。

(8/7再観賞追記)
初見時は髙石あかりさんが舞台で禰豆子演じてるって知らなかったんですが、 それを踏まえてもう一度観たらちさとがちくわ咥えながらボケッとしているシーンがまんま禰豆子で笑ってしまった。
表情も禰豆子そのものだったんでやっぱり役者って凄い。

あとモチのロンで続編希望なんですが、劇場版以上に連ドラでだらっと観たい気持ちが強いな……テレ東の深夜ドラマ枠辺りで。