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ディア・エヴァン・ハンセンのbackpackerのレビュー・感想・評価

2.0
アメリカNYのブロードウェイにて、2015年より演じられ、トニー賞、グラミー賞、エミー賞といった華やかな受賞歴を持つ人気ミュージカルの映画化作品。

ミュージカル作品における"歌"は、多くの場合、個人の置かれた環境・境遇に対しての、内面心理を吐露する手段として用いられるのが主流だと考えています。それが苦悩・葛藤・恐怖に対する救いを求める声であったり、「自分は自分だ。誰にも侵害されない」といったアイデンティティ提起の訴えであったりと、作品のテーマによって色々あるわけです。
当方ミュージカル作品に明るくなく、それが昔からなのか、現代の潮流なのか、判然としません(昔からの認識でおりますが)。
近年の作品では、『グレイテスト・ショーマン』なんかは、"個人の内面心理を表現する技法としての歌"という構図の最たるものであり、劇中歌This is meやNever enoughに代表される、"内に秘めた思いを歌に乗せる"時の感情の爆発的発露に対して感動していたのは間違いなく、そんな作品は好みであります。

さて本作はと言いますと、上述のタイプにバッチリはまるミュージカル映画でした。

が、強く心揺さぶられるような、感情の制御が効かなくなるかのような、猛烈な感動に襲われるか?というと、別にそこまでではありません。

最大の原因は、ストーリーのオチが初めから見えていることにあります。
「どのタイミングでリバーサルするかな?」と何度も腕時計を確認し、「上映終了時刻から逆算して、そろそろ……」と身構えてしまいました。裏を返せば、淡々と気もそぞろに見ていたわけで、作品に引き込まれていなかったということです。

それ以外にも、定期的に目を覚まさせにくる演出も原因だと考えています。
中盤山場の、ゾーイと相思相愛になったエヴァン絶頂期。めかしこんでダンスしたり、遊園地に遊びに行ったり……等のシーンが、それまでの時間軸に対してクロスカッティングして入り込んでくるところでは、時間経過がイマイチピンと来ず弱困惑。
クラウドファンディングが後2日で期日という段階に至って、「1ヶ月以上の時が流れた?」と認識しましたが、それまでは、クロスカッティングされるシーン=エヴァンの見る夢か幻だと思っていました。
たまに入り込む"編集がもたらす違和感"は、引き込まれ始めていた自分を再冷却するのに一役買い、また淡々と眺めるだけに戻してくれたわけです。


思いやりの嘘がもたらす結末と、その悔恨への贖いが、ちっとばかし駆け足かつ「そんなマイルドに収まるか?」という疑問も残りますが、現代的な闇と病みにスポットを当てたミュージカルですので、ご興味ある方は是非ご鑑賞ください。(ちょっと長いし、若干古臭い違和感もあるけどね。)
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