たけのこれんこん

ディア・エヴァン・ハンセンのたけのこれんこんのネタバレレビュー・内容・結末

1.9

このレビューはネタバレを含みます

最初、エヴァンはコナーの母親を悲しませたくないから優しい嘘をついているんだと思った。
それは素敵なことだと思ったし、不器用な青年が精一杯嘘をついて他人を慰める姿に感動した。
スピーチの歌は、曲自体が素晴らしくて今も聞いている。

けど、コナーの死が果樹園になっていくのが納得できなかった。
コナーの死を忘れない!どんな人も一人じゃない!……って…いつのまに遺族のための優しい嘘が孤独じゃないとかいうメッセージにすり替わっているんだろう。
しかもそれって結局は嘘でしょう?
生前は嫌われていたコナーから偽善くさいメッセージが生まれて、さも尊いものとして拡散していくのは意味がわからない。
違くない? それって全然コナーに対して誠実じゃないよね。
コナーは変人と言われて家族にも理解されずに死んだんだから、生前の彼はなぜ荒れていたのか、なにをしたかったのか、今からでも精一杯、本当の姿を探してあげて、もっと話をすればよかったって悼む方がいいと思うんだけど。

最初は偽りから生まれたとしても、中盤あたりで嘘を告白して猛省した主人公が仲間や彼の妹と一緒に本当のコナーを探して、悼んで、未来に進む展開を期待していた。
死者にとっても真実の自分を知って悼んでもらった方が、生きている間は散々腫物扱いしてたくせに、死んだら「君は孤独じゃない」とかいう謎メッセージで果樹園なんか作られるよりよっぽど供養になるだろうし。
私は最初からずっと「嘘をついてしまった弱い主人公が『嘘から出た真』で立ち直る物語」を期待してた。
つまりさっさと嘘を認めた主人公が、本当の意味でコナーを弔って、本当の尊敬を勝ち取る物語をね。
けどそうじゃなかった。
いつまで経っても嘘を嘘で塗り固める主人公には胸が苦しくなるし、コナーはまるで聖人のごとくあがめられ、誰にも言わないでと釘刺された手紙を勝手にばらす子まで現れて、私の期待とは反対方向に進んでいく。
人は孤独じゃないというメッセージは素晴らしいよ。でも主人公はさっさと嘘をついたことを反省して再出発すべきだった。
最後はちょろっとそうなっていたけど、すっきりしないな。


あと、主人公の歌唱力に驚きまくった。
それと、妄想の手紙に合わせてダンスするコナーが良かった。