平野レミゼラブル

クライム・ゲームの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

クライム・ゲーム(2021年製作の映画)
3.3
【騙し合いによる綱渡りは、やがて大物釣りの綱引きへ…】
『オーシャンズ11』シリーズのスティーヴン・ソダーバーグ監督十八番のコン・ゲーム系ノワールですが、まさかのレンタルスタートです。今回はオンライン試写として一足先に観させていただきましたが、いやはやIPアドレスがデケェ!!
同じオンライン試写参加した人にしか伝わらないですが、画面真ん中にデッカく数字が浮かぶのどうなんだ!?コピー防止なのはわかるけど、本作は普通に登場人物の顔に被りまくるのでシンプルに邪魔という。オンライン試写も割と参加していますが、他作品は邪魔にならない位置に配置していたり、薄かったりと映画観る上で気にならないような工夫していたのになァ……ただでさえ人物相関とかわかりづらく、画面に集中する必要のある作品なだけに、この形式での観賞はかなりキツいものがありました……

そう、本作、結構込み入っていてわかりづらいんですよ!
「ある書類を盗むために集められた3人の男たちが、書類のありかを知る男の家に押し入り、彼の家族を人質に取りながら書類を持ってくるのを待つ。簡単な任務の筈が当初の計画が大幅に狂い…!?」とあるあらすじや予告からして、『レザボア・ドッグス』や『インサイド・マン』といったようなある種の密室コン・ゲームを予測していたのですが、その押し入った強盗達は自分達を雇用した黒幕を突き止めるために早々に家を離れますし、隠れ場所も次々変えたり黒幕候補やら裏切る奴らも続々登場して中々忙しない。
メインとなるのはジャケットに映るドン・チードルとベニチオ・デル・トロでして、彼らのバディムービーでもありますが、2人とも裏世界で生きる者の嗜みとして相手を心の底から信用していないし、保険もお互いかけまくっている。そんな誰も彼もが信用できない状態で話が進んでいくため、観ている側も相当に頭を使っていかないと現状把握すら困難になっていくのです。

ドン・チードルにしろ、デル・トロにしろ、裏社会でそれなりの修羅場を潜り抜けてきた猛者であり、その気になれば組織の兵隊も動かせるだけの地位にあるのですが、今回上から依頼された仕事というのが、どうにも簡単な内容に反してデカいヤマらしいことは薄々察していきます。
だからこそ、自分達がトカゲの尻尾にされかけていることにすぐに気付くワケで、密室劇パートが少なかったのもそれが要因。家を出た2人は次々と敵対している相手の名前を挙げてはそこに赴き、割と強引な手法を持って真相に近付いていく暴力のわらしべ長者形式で話は進んでいきます。いつ居場所を突き止められて謀殺されるかもわからない状況だから、2人とも必死。必死だからこそ、時に暴力100%で無理矢理道を切り拓いていくというなりふり構わなさが面白いです。
特に最初の家の男を上司の家に連れて行き、上司を殴らせまくって書類の在り処を探らせる展開でゲラゲラ笑ってしまった。強盗の存在を認知してない上司からしたら、業務を放っぽりだして突然家を訪ねてきた部下が「本当はこんなことしたくないんですゥ~」と泣きながら馬乗りになって殴りかかってくる状況ですからね。特に理由のない暴力が上司を襲う!!

必要に応じてチンピラじみた乱暴な手段を使うだけで、チードル、デル・トロ共に頭はキレるのもミソ。
「どうやら黒幕は書類を必要としているから書類を保険にする」と「書類を渡した瞬間に保険もなくなって自分の身が危ない」のジレンマを解決する方法とか、クレバーで感心しちゃいましたからね。
ただ、2人ともギリギリの綱渡りをしつつ、あわよくば…の大逆転を狙って黒幕を引っ張りあげる明らかに身の丈に合わない釣りまで始めちゃうので「オイオイここら辺で手を引いとけ~」と心配になってしまう。そこら辺はクレバーながら、なんやかんやチンピラじみてますね。
オマケに一緒になって生き残ろうと画策している内に絆も芽生えているんですが、腹の底ではお互いに出し抜こうとしているので本当にどうなるかわからない緊張感にも溢れています。

正直なところ、最初の方に名前だけ出てきたヤツが後の方に顔出しすることがザラで台詞と状況を一致させるのに時間はかかるし、黒幕の目的というのも50年代のデトロイトという舞台が絡んだものなのでイマイチ理解できず乗り切れなかったところも多いです。
いつ、どこで、誰が、なぜ、どうやって、いくらで、何をしたいの?と5W2Hを見失うのもしょっちゅうなので、本当の意味で楽しめたかというと口ごもってしまう部分もあります。
ただ、様々な立ち回りの末にチンピラ2人が引っ張り出した大物を演じるのが、本当にまさかのビッグネームだったのには驚かされました。あそこは演じている俳優のネームバリューも相俟って、遂にここまで来たか…!って感慨があったなァ。あと、昨年観た映画ではあの人、そっち関連に振り回される役をやっていただけに、今回は逆に振り回していたのも面白い偶然の一致にして逆転ポイントである。