ヨーク

東京クルドのヨークのレビュー・感想・評価

東京クルド(2021年製作の映画)
4.2
これは大変良い映画。何はともあれ観てくださいとまず言いたくなる。
内容は『東京クルド』というタイトルにあるように故国の内戦から逃げてきて東京で在留しているクルド人青年の二人の姿を映したドキュメンタリー映画なんだけど、その二人はそろそろ成人するくらいの年齢で進学やら就職やらで悩んでいる難しいお年頃。年齢的にも難しい時期なのだがそこに輪をかけて難しいのが彼らには難民認定が下りていないため本来ならば入管に収容されるはずのところを仮放免という形で入管の外で暮らしているという状態。まぁ入管にも施設的な限界とかあって難民として正式なビザを持たないままやってきた人たち全員を収容したりはできないんでしょうね。だから仮放免という一時しのぎ的な手段で正式な沙汰があるまで待機してもらおうということなのだろう。もちろん入管に収容はされないからといって無制限な自由があるわけではない。どうも2週間に1回か月に1回かは分からないが定期的に入管に顔を出して近況報告とかをしなければいけないようだ。まぁビザなしの外国人を放置しておくわけにもいかんのでそれ自体は分からんでもない。んでこの仮放免というのはあくまでもビザもないしかといって難民申請も下りていないという宙ぶらりんな状態なので基本的に就労は認められていないんですよ。教育に関しては本作を観た限りでは公立の小中高校は最低限の学費さえ払えば受け入れてくれているようだが大学や専門学校になってくるとその学校の判断次第なのかなというような感じがした。まぁそういう立場の若者二人を描いた映画ですよ。
色々と思うところはあったんだけど、まず本作の主役であるオザン君とラマザン君は生まれはトルコだったかシリアの北部だったかは失念したがとにかく日本で生まれたわけではない。だがかなり幼い頃に父母と共に日本へ(オザン君かラマザン君か忘れたがどちらかの親が本当はドイツへ亡命したかったと言っていた)逃げ延びてきたわけだ。幼稚園か小学校低学年くらいの年齢のときに日本へ来て最初は言葉も分からず馴染めなかったが次第に日本語が堪能になると普通に友達ができたりもしたとのこと。何が言いたいかというとオザン君とラマザン君は紛れもなく日本で育った人間なのだということですよ。だから日本の国籍を与えろ、とまでは言わないし二人も日本国籍を欲しがるかどうかは分からないが、上で書いたように就学に関してはまだマシな部分があるにしても就労が認められないっていうのは何故なのか理解に苦しむ。難民申請なりビザなり出せばいいじゃん、と思うんですよ。
ここマジで作中でも合理的な説明が一切なくてずっと分からなかったな。俺は出入国の法律とかに関して素人もいいとこだけど、多分身も蓋もなく法に不備があるだけなんじゃないの? と思うんですよね。どういう法的なメカニズムがあるのか分からないけど多分正当な法の施行として無理なんでしょう。そこは多分本当にそうなんだと思うよ。本作でゼーレよろしくSOUND ONLYで出演する入管の職員とか滅茶苦茶ムカつくし救急車の件にしてもお前ら舐めてんのかよって感じなんだけど、あれも多分クルド人が憎くて苦しめるためにやってるわけじゃなくて法律というシステムがその状況に対応できていないから融通を利かせることもできずに杓子定規な対応をしているだけなんだと思うんですよ。救急車の件だって多分クルド人なんて死んでもいいとか思ってたわけじゃなくて現場が独自に判断できないから上司の判断を仰いで下らない会議でもしてさらに上から許可を得てというプロセスを踏むのに30時間もかかったんだと思うんですよね。
そんなの一言で言えばバカなんじゃないの、と思いますよ。単なる制度の欠陥じゃん。でもきっと法ではこうなっているから、ということで柔軟に動けないんですよ。確かに法律もそれに基づく制度も国家を維持するために重要だけど、どんな法律だろうが制度だろうが完璧なものなんてあるわけないだろうが。法律だって条例だって時代や状況にそぐわなくなってくればどんどん改良していけばいいんですよ。まぁ改悪になることもあるけどさ。とにかく本作で描かれている範囲内のことだけでもオザン君もラマザン君も就労の意思は強くあるし能力もあるしで正式に労働力として受け入れればいいじゃんと思うんですよね。別に外国からの難民に限ったことではないけど若者を勉強も仕事もさせずに放っておくと不逞な輩と関係を持って反社会的な勢力に取り込まれてしまう可能性だってあると思うんですよ。だったらビザなり難民申請なりさっさと通して正式にカタギの仕事をしてもらって、さらにそこから幾ばくかの税金でも納めてもらえれば国としてもいいことづくめじゃん、と思うんだけどなぜかそうはならないみたいなんですよね。
仮放免、という言葉に「仮」とあるようにその制度は多分オザン君やラマザン君の立場というものが本来ならば一時的なものであることが想定されていて何十年もその立場のまま宙ぶらりんになるという状況は考えられていなかったんだとも思うんですよね。じゃあその制度を変えるための法整備をってなるんだけど多分日本の政治家にとって在留クルド人の利益は票にならないからいつまで経ってもそこにメスは入らない、ということはあるのだと思う。割と民主主義の限界を感じるような深刻な問題だと思いますよ。
とまぁ色々と思うところはあるし重い題材を扱った映画ではあるんだけど、本作はそういうお堅い部分だけじゃなくて割と普通に面白い映画であったりもするのだ。そこも本作の良いところだと思うな。
主役であるオザン君とラマザン君が将来に悩む姿っていうのはベタな青春映画の一幕のようでもあり単純な映像や会話のやり取りがグッときたりするシーンもある。二人が土手に座って互いの悩みを打ち明けてるシーンとか凄くいいんですよ。たしかラマザン君の方が反抗期的なアレで親と上手くいってなくて深夜に近所の駐車場で「俺って何のために生きてんだろ…」とか愚痴るとことか国籍や状況関係なく若者って感じでよかったな。そこら辺にいるティーンエージャーと変わらない部分もあって親近感めっちゃあったね。あと彼らの家庭内を描くときに映される料理ね。家庭料理が結構しっかりとカメラに映っていて凄く良かったな。なんか金ダライみたいなでかい調理器具で焼いたパンみたいなやつとか、日本の狭いキッチンであんなの作れるのかよって感心したよ。本作の題材的に面白いとか言っちゃうのは気が引けるところもあるけど、そういうところはぶっちゃけ面白かったですね。
そういう風に難民とか抜きに普通に共感できる部分もあるので意識の高い人が難民問題を考えて世に訴えるための映画、とかじゃなくて軽いノリで観てもいいんじゃなっすかね、とは思いますね。この感想文で一番最初に書いた、何はともあれ観てくださいってのはそういう意味です。
オザン君とラマザン君は難民として日本にやって来て育ったという境遇はあるけれど、同時にエロ動画見てシコってる青年でもあるわけで、ニュースでしか見かけないような難民という言葉で語られる人たちがどういう感じなのか知るきっかけになる映画だと思うので激おすすめです。
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