わたがし

ARGYLLE/アーガイルのわたがしのレビュー・感想・評価

ARGYLLE/アーガイル(2024年製作の映画)
5.0
in IMAX
 ここ最近で1番楽しみだった映画。ファースト・エージェントの反動なのか、かなりただのエンタメでびっくりした。キングスマンシリーズで色濃く捻じ込まれていた政治性とか自己言及みたいなのがほとんどなく、ただひたすらエンターテイナーとしてやりたいことが詰まってる感じで、これはこれで楽しいけどいつものマシュヴォン映画の居心地の悪さが恋しくなる。
 元々のスパイ小説という体のものが単体であって、それを解体してこの脚本ができたみたいなことがパンフに書いてあって、それ故のバランスの悪さなんだろうなと思った。ジャンル映画としての面白さを前提にジャンルを超えて普遍的なものにするという狙いがあるんだろうけど、ジャンル映画の面白さパート(前半)が普通にちょっと複雑すぎてあまり面白くないという。ストーリー構造の割に描写を端折りすぎなのかもしれなくて、でもこのトーンで3時間とかは意味わからないし、映画って難しいですね
 トーンとして結局シリアスに観ていいのか馬鹿のノリで観ていいのかわからせない作りにはなってるんだけど、シリアスなエピソードのほう(主人公のルーツ探り)が普通にハートフル系だから「政治的なもの、馬鹿にしてはいけないものを馬鹿にしてしまってる」快感みたいなものもなく、ただ絶妙な困惑だけがあった。「これだと観客が作劇の力で信じていったものまでも小馬鹿にしているような流れになるのでは?」みたいなくだりが何回もあった。そして光る選民意識。凡人に小説は書けない。やっぱりこの映画とても好きな気がしてきた。
 ストーリーはさておき、やっぱり自分はマシュヴォンの観客に対する態度みたいなものがすごく好きなんだなと思った。スレンダーじゃない中年女性のアクション、男女のパワーバランスの逆転、マッチョキャラの記号化、そういう昨今ポリコレ的に正しいとされている類の描写を正座で「これが正しいです」みたいな提示の仕方をするのではなく「ざまあみろ!こんなの観たことねえだろ!」的ヤンキーイズムで叩きつけてくる感じ。このヤンキー性こそが「こんなの観たことない」に満ちたアクションの精神性でもある気がする。
 皆殺しバレエや石油スケートみたいなシーンにおいてマシュヴォンはこんなの観たことないでしょ、だけで終わらせず、その後のダメ押しをしつこくやるのが他の奇衒い系作家と別格なところ。そのしつこさのサービス精神。客が観たことないものを貴重ぶって高値で売らず、大セールで放出する。このたかが外れたとしか言いようのない描写の高揚感。
 ただ今回はそこにゴアがないことによってCGのツルツル感と荒唐無稽感が強調されてくだらなさが増してる部分がある。このファンタジックさもストーリーテリングとして理にかなってはいるし、これはこれでいいなとも思いつつ、やっぱりキングスマン3は派手な人体欠損に期待してしまうね
 そして短いシーンだったけどカーチェイスが本当に最高だった。ハリウッドも日本も泥臭いマジスタントばかりが崇拝されるけど、アクションの豊かさと楽しさってこういうことなんじゃないかと本当に思う。カートゥーンすれすれの信じられない現象が生身の人間によって引き起こされている(もちろんVFXありきだけど画としての)驚き。ワークも編集も正確で、何がどこにぶつかってどう危ないのか把握できる。観ててとても嬉しくなる。観てて嬉しくなる映画は素晴らしいね
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