むぅ

ブルー・バイユーのむぅのレビュー・感想・評価

ブルー・バイユー(2021年製作の映画)
4.3
「後5分で着くよ!」

可愛いスタンプと共にLINEが鳴った。そして3分後に彼女は登場した。
「マメだよね」
「時間も約束だからね」
本当、大好きだなと思った。
私も時間には正確な方だが、彼女の時間も約束だからという言葉はなんだか沁みた。
早く着いちゃったからコーヒー飲んでるねという私への返信。
お店を出て飲みに向かう足取りはいつも以上に軽かった。


[約束]という言葉が浮かぶ人はどれくらいいるのだろうか。

[憲法]って何?
そう聞かれたら、私は[法律]という言葉が浮かぶ。
正直[約束]は出てこない。
アメリカのニュースやドキュメンタリーを観ると「憲法は約束」という言葉をよく耳にする。
そしてその言葉と共に、憲法修正第14条がよく出てくる気がする。

"合衆国で出生した者
帰化した者
かつ合衆国の管轄に服する者は
国および居住州の市民である"

そんな時、必ず登場する[市民権]という言葉。

国との約束
大切な人との約束
守ってもらえなかった約束と、守ってあげられなかった約束、どちらが濃い影を心に落とすのだろうか。


韓国で生まれ、3歳の時に養子としてアメリカに連れてこられたアントニオ。今はキャシーと結婚し、娘のジェシーと暮らしている。
ところが30年以上前の書類の不備で移民局へと連行され、このままだと強制送還されることに。
[市民権]とは。
そしてあの朝ジェシーとした[約束]はどうなるのか。


制作された時代的にも背景にはゼロ・トレランス政策があるのだろうなと思う。それと共に映画館で咽び泣いてしまった『牛久』を思い出す。
相手の何かを"指摘"する際、その"指摘"がブーメランになって自分に戻ってくることは多い。
それは人でも国でもきっと同じ。

過去に自分が守れなかった約束を思い出す。
そして自分は忘れていたのに、相手が覚えていてくれた約束を思い出す。
様々な状況があると思うが、約束を守ってもらった時の大切にされているという感情は心が柔らかくなる気がする。

ジェシーがその[約束]を口にした時のアントニオの表情がどんどん重くなっていくのが辛い。
破ってしまうかもしれない[約束]を、守るよと言わなくてはいけない状況が本人に何も落ち度がない時の苦しさ。


Netflixのリミテッドシリーズ
『自由の国アメリカ:闘いと変革の150年』というドキュメンタリーを最近観ていた。
素晴らしかった。
とにかくわかりやすく、過去観てきた映画の数々のシーンが蘇る。
何気ないあの言葉や描写の背景に、こういう事があったのだと痛感し、もう一度その映画を観たくなる。これを観た後では解像度が違う気がする。
マハーシャラ・アリが出てる!
ただそれだけの理由で観始めた作品だったが、私にとってはギフトだった。


そしてもう一つ素敵なギフトがあった。
なかなか会えない友人と待ち合わせをして、お互い久しぶりのその街をちょっと歩いて本屋に入った。
「この本おススメ」
お互いのおススメの本を買いあった。凄く幸せでキラキラした時間だと思った。
今日は読めないかもなと思う日でも鞄にその本が入っていると、不思議と鞄が軽くなる。
その本を読んだら、またちょっとその子の背景を知ってもっと好きになる予感がする。

そんな何気ない愛おしい時間が壊れてしまったアントニオの事をまた考えた。
むぅ

むぅ