平野レミゼラブル

私はいったい、何と闘っているのかの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

2.2
【私はいったい、何の愚痴を聞かされているのか】
お笑いに疎いんで、芸人のつぶやきシローが小説を出していたなんて知らなかったのですが、その同名小説の実写化作品となっています。原作未読、つぶやきシローのこともそんなに詳しくないですけど、本作を見るにどうにも彼の芸風であるぼやき芸一本で中年サラリーマンの悲哀を描いた作品って感じでしょうか。
俳優でぼやき芸と言ったら“どうでしょう”大泉洋なイメージがありますが、本作で2時間フルでぼやき続けるのは“onちゃんの中の人”安田顕の方という。確かに演じる役でいくと、なんやかんや大泉洋は割となんでもソツなくこなす器用な切れ者役のが多く、逆にヤスケンの方に空回りしまくりな駄目人間役が多いイメージはあるっちゃありますね。まあ実際に彼が演じる春男のどこか痛々しくもある空回りぶりや、事なかれ主義で駄目駄目な部分などが妙にリアルでハマってはいるんですけれども。

お話自体が日常に対するぼやきで構成されているため、物語はあるあるネタ中心で特に山もなければ谷もない平坦な感じで進みます。
一応、スーパーで万年主任の春男に店長への出世のチャンスが!?とか、長女がチャラめの彼氏を連れてきた!?とかのドラマは挿入されますが、まあ山とか谷じゃなくてゆるやかな起伏レベルですよね。そして、その起伏に対して春男がどのように対応するのか…といった部分が映画としての見所となるのですが、何というかこれがあまり面白くはない。
前者は「皆から期待もされていたし、自分も気持ちが大きくなってたけど、なれませんでしたズコー!」で、後者は「父親としての威厳を見せようとしたけどチャラ男の方がよっぽどしっかりしているよ~!威厳で完全に負けちゃったトホホ~…」といった形のオチがつくんですけど、まあ全て予定調和の流れでしかないんですよね。物凄く使い古された笑いの「外し」でしかないので、これで本当に笑わせようとする気あるの?って気持ちになっちゃう。

いくら流れが古典的と言っても、会話の流れやテンポ次第で面白く仕立てることもできるんですけど、ここで本作のぼやき芸が足をとことん引っ張ってきます。出来事に対するリアクションが全て春男によるぼやきという名のモノローグで自己完結されてしまうんですね。
そのため、春男の周囲にツッコミ役を出来るものが皆無となり、会話によって滲み出る笑いや面白さが望めず、ツッコミも一本調子になってしまいます。また、春男との対比の為か、周囲のキャラクターはやたら濃ゆくオーバーリアクションな人多めなのも鬱陶しい。特に金子大地演じる部下は声量がバグっているレベルでデカく、誇張しているにしても違和感が強すぎます。

そんなあまり出来がよろしくない日常あるあるギャグとぼやきの連発なので、物語全体を思い返してもパンチ不足が目立ちます。
一応、後半で物語の要所要所で小出しされていた春男の家族に関わる重大な秘密が明かされる部分はちょっとしたパンチと言っても良いですが(少し『マイ・ダディ』を思い出した)、沖縄ロケを敢行しながらも春男のやることは画的に物凄く地味なので別に盛り上がりはしないです。むしろ、春男の重大なことほど後回しにしてしまうという悪癖も発揮されるので、盛り上げられる部分を打ち消してしまってもいるのが何とももにょる……
そのため、本作で一番ビックリしたことは「伊集院光が物語開始早々に死ぬ」ことになるんですが、正直それはどうなんだ。

そもそも、春男の何事も不器用で空回りしがち、事なかれ主義のクセに見栄っ張りで良く見られたいから頼まれごとは断れないお人好し(のように見える)キャラクター自体が能動的に物語を動かす主人公向きではないんですよね。
別に物語全てが能動的な主人公である必要はありませんし、本作も最初から観客に春男に共感させることができればそれでいい作風ではあるんですけれども。ただ、その結果として延々とオッサンのぼやきという名の愚痴を聞かされる羽目になるってのは、ちょっと僕には耐えられなかった。
正に『私はいったい、何の愚痴を聞かされているのか』ってヤツなんですが、これ世の春男の同年代の方々は愚痴を聞かされて「あるある~」でデトックスするもんなんでしょうかね?少なくとも僕は、オッサンの愚痴ほど退屈でつまらんものはないって結論に至っちゃったんですけど。

身も蓋もないこと言い出すと、春男もその家族もなんなら物語全てに興味が一切持てない状態が持続してしまったので、本当にごめん。全てがどうでもよかった……
愚痴が嫌いっつったのに愚痴めいた感想になってるのもどうかと思うので、最後に良い部分挙げときますが、ファーストサマーウイカさんの変貌ぶりは凄く驚いたし意外と良かったです。最初、ヤスケンの娘の方でキャスティングされているばかりと思っていたんですが、平岩紙や江口のりこが演じるようなポジションにいるんですよ!!彼女が最初現れた時には「えっ誰!?」となり、一時停止して彼女が演じていることを確認した時に「えっマジで!?」とビックリしました。
なので、本作の思わずビックリした見所は「遺体安置所に横たわる伊集院光」と「限りなく平岩紙に近いファーストサマーウイカ」の2つということになりますね。それも正直どうなんだ。