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最後の決闘裁判のYYamadaのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
3.9
【ヒューマンドラマのススメ】
 ~映画を通じて人生を学ぶ

◆作品名:
最後の決闘裁判 (2021)
◆主人公たちのポジション
中世フランスの騎士とその妻
◆該当する人間感情 (24種の感情より)
 羨望、恥、憤慨、自責

〈本作の粗筋〉 eiga.comより抜粋
・騎士カルージュの妻マルグリットが、夫の旧友ル・グリに強姦されたと訴えるが、目撃者もおらず、ル・グリは無実を主張。
・真実の行方は、カルージュとル・グリによる生死を懸けた「決闘裁判」に委ねられる。勝者は正義と栄光を手に入れ、敗者は罪人として死罪になる。そして、もし夫が負ければ、マルグリットも偽証の罪で火あぶりの刑を受けることになる。人々はカルージュとル・グリ、どちらが裁かれるべきかをめぐり真っ二つに分かれる…。

〈見処〉
①生死を賭けた<真実>が裁かれる――
・『最後の決闘裁判』(原題:The Last Duel)は、2021年にイギリス・アメリカ合作にて製作された歴史映画。2004年に刊行されたノンフィクション『決闘裁判 世界を変えた法廷スキャンダル』を原作とする。
・「決闘裁判」とは、一向に解決を見ない争いの決着を神にゆだね、命を賭けた決闘で解決する、いわば究極の裁判=神判。本作は「百年戦争」さなかの1386年に実際に執り行われた「フランス最後の決闘裁判」を巨匠リドリー・スコット監督により「映画の内容は史実に忠実に再現しており、結末も含め75%以上実話に沿ったストーリー」として描かれている。
・本作の主要キャストは、権力と地位を求めて戦いに向かう騎士ジャン・ド・カルージュ役を、『オデッセイ』(2015)でもスコット監督と組んだマット・デイモンが演じ、その親友で、臣下でもあった従騎士ジャック・ル・グリを、『スター・ウォーズ』シリーズや『マリッジ・ストーリー』など、話題作のオファーが絶えないアダム・ドライバー、女性が声を上げることのできなかった時代に裁判で闘うことを決意した、難役マルグリットに『フリーガイ』(2021)でもヒロインを演じたばかりのジョディ・カマーが演じている。また、カルージュよりもル・グリを寵愛する領主ピエール伯をベン・アフレックが扮している。
・本作は、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け、予定より約10ヶ月延期された2021年末10月に北米公開されたが、「上映時間が2.5時間のため上映回数が制限」「万人受けしない題材」「45歳以上の客層が劇場に戻っていない」「『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』と競合」によって、リドリー・スコットのキャリアの中で最低のオープニング記録となり、製作費回収に至らない赤字作品となった。

②現代環境を踏まえた脚本へ
・本作はベン・アフレックとマット・デイモンの2人が、アカデミー脚本賞を受賞した『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997)以来、24年ぶりの共同脚本として着手。黒澤明監督の『羅生門』(1950)を参考に、同じ出来事を複数の登場人物の視点から描く手法を採用することとしたが、歴史的な記録や史料は男性視点のものしか残っておらず、アフレックとデイモンはカルージュとル・グリの視点の脚本を担当することとなった。
・そして、歴史上抜け落ちていたマルグリットの視点は、Netflixドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』などを手掛けた女性脚本家ニコール・ホロフセナーに託し、屈辱や好奇の視線にさらされても、闘うことをやめなかったマルグリットのキャラクターが醸成された。
・また、マルグリットを演じたジョディ・カマーも脚本会議に参加し。3幕ごとに微妙に異なるニュアンスや表現の違いの創出に参画した。

③結び…本作の見処は?
◎: 同じ場面を異なるニュアンスで、三者三様の視点にて描かれている本作脚本によって、三人それぞれの行動原理に合理性がある。とくに、マット・デイモンとジョディ・カマーが演じた中世の夫婦愛の捉え方が男女視点で全く異なることが丁寧に描写されているのが興味深い。
◎: 建設中のパリのノートルダム大聖堂などの描写、中世の侘しい舞台世界や迫力のある合戦シーンなど、リドリー・スコットによるリアリティーの高い演出ぶりは健在。
○: 表情だけで何が起こったのか表現するジョディ・カマーと、アダム・ドライバーの凄惨すぎる本作のラストショットは圧巻。自らの商品価値を落としかねない出演リスクの高い配役をハリウッド最旬俳優の2人は見事に消化している。
▲: 2.5時間に渡る泥臭く生臭い描写の連続は、鑑賞者の精神的なエネルギーを大きく消耗する覚悟は必要。

×: 本作内容とは無関係ながら、Disney+
のスマートTV表示字幕のレスポンスは酷すぎる。課金してても他の配信サービスで鑑賞すれば良かったと後悔。。

④本作から得られる「人生の学び」
・無意識にも当事者それぞれの視点によって「真実」は歪められる
・自身の「正義」は、必ずしも他者と合致しない
・紙一重の差が勝者と敗者を分け、その格差は恐ろしく残酷である
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