B5版

最後の決闘裁判のB5版のネタバレレビュー・内容・結末

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

暗い映画大好きですが、これは最後まで鑑賞完了できないかもと危ぶむ位、堪える映画でした。

13世紀に起きた決闘裁判の真相を巡る話だが、描かれてるのは21世紀のリアル…
被害者でありながら苦境へ立たされるマルグリットの受難はまるごと現代の女へとリンクする。
女の人権の進んでなさには愕然とするが、ディズニー配給でこの悪辣さを描く意味は大きい。

名作『羅生門』の三幕構成をオマージュしながら歴史上の有名な宗教裁判をドラマティックな物語に描いた本作。
出来事の三者三様の証言を検非違使が追想する羅生門とは違い、
今作は誰が罪人かを捌くまでの波乱と人間模様までを描く。
しかし裁きを下すはお奉行ではなく、「何もかもお見通しであられる」神。
正義には加護を、嘘つきには神罰、すなわち死を与えるという当時の測り難い考え方に従い執り行われる。

物語の終盤の最高潮の盛り上がりではある決闘シーンはさすが名匠というところで、男達の決闘の気迫とその場に漂う緊迫感、極限まで張り詰めた空気の圧倒的臨場感。

しかしこの映画の肝はホモソーシャルと女社会のそれぞれの無自覚な加害性。
何気ない会話や空気感にふんだんに染みこんでいて、思わず目を覆いたくなりますね。
つまらない権力ゲームに拘泥し、権威と所有物に嫉妬して罵り合う男。
ひたすらお役目を果たす産む機械の女。
男が女を隷属させ、それに歯向かう女を男女が糾弾することで完成する男権主義社会の奴隷の永久機関。

この世は巨大な牢獄、女三界に棲家なしを体現したマルグリットの閉塞感がうんざりしつつ、そこから文字通り捨て身で戦おうとする女の強さに刮目する。
しかしどうしたって彼女の運命は本人ではなく男達に委ねられる。
どちらが勝とうと勝利のトロフィーか魔女か、どうせ見せ物には変わりなく。
穏やかな安寧のようにも、もはや魂が抜かれた容れ物のようにも見える最後のマルグリットの眼がもの悲しいラスト。

それにしても、過去の名作オペラによく現れる性急なラブストーリー「一目で恋に落ちる男女」の本質を覗き見たような気がして、過去の名作への高揚が凍りつく思いだ。
興行的には伸びなかったようだが、男と女の古典的ロマンス神話を覆す、パラダイムシフトの映画。
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