このレビューはネタバレを含みます
「日本の時代の流れを大きなフリにした、全ての日本人に突き刺さる名作」
◎よかったところ
友達におすすめしたら流し始めて、一緒に鑑賞しましたが、久しぶりに見ると震えますね。。ここからはネタバレ全開で語ります。
この映画は技術面でも、物語の面でも、力の入れ具合がすごく、90分とは思えないボリュームでたくさんのことを伝えてくれます。
前半の展開ではホラー、サスペンスを
中盤の展開ではコミカルなアドベンチャーを
後半の展開では家族愛を巻き込みながら、物語の核心に触れていく。
綺麗な構成で見飽きることがなく、ドキドキできて、笑えて、泣ける、美しい映画。
この映画の何より見てられるのは、一方的な勧善懲悪の物語ではないというところ。この物語に明確な悪役はおらず、ケンの考え方すらも、時代が窮屈になりつつある今、否定できず、懐かしの世界に惹かれていく大人たちも、懐かしくて頭がおかしくなりそうなひろしの心情も痛いほどにわかる。
だからこそ鑑賞者である自分自身も本物の葛藤をもって見ることができるし、最後に伝わってくる「家族愛」というテーマがしっかりと突き刺さる。
悪くなっていく未来と
大切な人と生きる未来
どちらも捨てられないものなんだったら、僕らは何を大切にしたらいいのだろう。
その答えに近いようなものをこの映画は与えてくれると思います。
ラストシーンはもうすごいですよね、、
共感できる部分はあるとして、ケンとチャコが行った行為は、ただ自分達の孤独の解消を他者に押し付けているだけで、時間に争うことは、愚かなことであることは間違いなかった。それを悟ってか身を投げようとする2人
そこで叫ぶしんちゃんのセリフ
––––––––ずるいぞ!
痺れますよね、
ラストシーンのセリフは全ていいですね・・
「また家族に邪魔されたな」「死ぬのが怖い」
「お股ヒュンってなったの?」「そうだな」
最後の「そうだな」という台詞を少し笑ったように言うケンの声がすごくよかったですね。
取り憑いていたものが取れたかのような雰囲気でした。2人にもちゃんと未来で幸せになってほしいです
●悪かったところ
取り立てて言うところもないですが、ひとつは、短すぎるので、多少描写の雑さは目立つかなというところ(満点にはならないのはそのため)
あと個人的に感じたところを言うなら匂いによって洗脳された大人たちの異常性がちょっと過剰すぎることですかね。
昔が美しいこと、懐かしさに惹かれていくことには共感できる、だから、大人たちの考え方もわかる、というところなんですが。
この異常性が、そういった共感できるものを逸脱したものであるために、物語のノイズになるような気がしました。
でもそこもおそらく配慮していて、”正常”に戻ったひろしが、泣きながら「懐かしすぎて頭がおかしくなりそうなんだよ!」という叫ぶシーンがありましたね。
そのシーンで異常性と共感できる部分の「グラデーション(変化の中間)」が描写され、そうすることで、また一つ整理がついてるのかなと思いました(結局褒めとるやん)
あくまで子ども映画、もしくはファミリー映画ですし、わかりやすさ(明らかな異常性)を重視する。
それでも、ちゃんと”伝えたいことが伝わる構造”を維持する。
そういう仕掛けがいくつも散りばめられてるのではないかなと思ってます。
◆総評
この映画は日本で生きる人たちのために作られた映画だと思います。
平成が失われた30年と言われてるように、過去の美しさに取り残された人々は数多い。
今も、その最中である。
そういう、時代の流れを全てフリにして、野原家の家族愛と、しんちゃんの持つ純粋さが、ひとつの癒しを与えてくれる。
誰もが楽しめるエンタメでありながら。
無意識的にも、意識的にも多くのものを伝えてくれる。
好きな作品ですねm(_ _)m