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硫黄島からの手紙のRのレビュー・感想・評価

硫黄島からの手紙(2006年製作の映画)
5.0
す、すごすぎる…クリントイーストウッドの圧倒的な力量に言葉を失ってしまった…。何人か米兵が出てくるシーン以外はすべて日本語で、日本人俳優のみ、ぱっと見は日本映画にしか見えないのだが、れっきとしたハリウッド映画。ところが、やっぱり日本映画でもハリウッド映画でもない、イーストウッド独自の映画としか言いようがない作品になっている。感嘆を禁じ得ぬのが、戦争映画としてものすごくフェアである点。例えば日本人が同じ題材で映画を作ったとしたら、永遠の0点のようにもっとあからさまに軍を美化したクリーンでフェイクな作品になっていただろうし、誰か別のハリウッド映画だったとしたらもっと派手で感動的なドラマティックな作品か、陰惨なバイオレンスにぐったりするそうな作品になっていたことだろう。ところが、イーストウッドの視点は驚異的なほどフェアなのであります。ストーリーとしては、陸続と攻め込んでくる米国の大軍から、徹底的な防御作戦で硫黄島を守り抜こうとする、小規模な日本軍の決死の戦闘を描いた、非常にシンプルな映画。イーストウッドの演出も、戦争最低限のドンパチドカーンドカーンの派手さを除いては、いつも通り地味で、簡潔な描写が積み重ねられていく。よって、昂ぶるエモーションで感動するシーンは皆無。一方、あらゆる面において、丁寧かつ端正でありながら、非常に大胆な映画であることに驚かされるのです。さて、先に触れた本作の視点のフェアさは、ちょっと他の戦争映画ではお目にかかれないレベルかもしれない。まず、日本軍だけ見ても、国のためなら命をも棄てるって点は国家間の戦争やから大前提ながら、それでも、「無駄死にをすることには意味はない、逃げてでも残った別の小隊と合流すべき」と考える合理的かつ人間的な指揮官がいたり、「いやいや、追い詰められて逃げるくらいなら自決を選び、また、同じ隊員に自害を強制するのは当然」と考える狂気じみた上官もいる。お国のための戦いの中で死ぬことを本望と考える者もいれば、家族のために生き延びたいと望む者もいる。理性的な者、狂信的な者、勇気ある者、臆病者、心やさしき者、残虐な者、人間の組織である以上、あらゆる人たちがある点では同じ志を共有しながらも、それぞれ異なる色合いを持っている。これは、ほんの少ししか出てこないアメリカ軍も同じで、一色だけの類型的な描写を一切していない。また、戦争自体に対しても、単純に反対とか賛美とかみたいな、白黒はっきりしたイデオロギー的なものを感じさせない、知的で冷静なニュートラルさがある。ただ純粋に、戦闘の状態を淡々と描き出し、日本兵たちが感じていたであろうひとりひとり異なるリアリティーを丹念に抽出していく。けれど、そんな中に、イーストウッドは自分の思想をきちんと反映させているのではないかと思う。それは、どんな状況下であっても人間のなかに美しく光る、愛情や信頼や勇気や覚悟や信念の強さといった美徳に対する惜しみなき賞賛であり、人間の善性に対する揺るぎなき信頼であると思う。それを声高に主張するのでなく、うっすらじんわり感じさせる紳士的エレガンスに、私はただただ陶酔するしかありませんでした。天皇陛下バンザーイ!の雄叫びに、薄ら寒さや恐ろしさや滑稽さや狂気を感じなかった初めての映画かもしれません。それだけでも自分的にビックリ。おそらくは人間全体に対する深い敬意があるからなんだろう。イーストウッドすげえ…。戦争映画としてこれほど非の打ち所のないバランスを持った理性的な作品はそうそうないのではと思います。モノクロに近いほどコントラストのハッキリした映像も美しく、音楽も耳に残ってずっと脳内プレイしてます。あと、ニノめっちゃ良かった! 中盤くらいまでぜんぜん気づかんかった笑 ちなみに、わたくし勘違いをしておりまして、同じ題材を米国視点から描いた父親からの星条旗が、これの次の作品だと思ってたら、そっちの方が先やったんやね…。というわけで、順番は前後しますが、そっちも見てみたいと思います。いやーマジすごい。感動しすぎて震えています。ぶるぶるぶる。
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