きまぐれ熊

雨を告げる漂流団地のきまぐれ熊のレビュー・感想・評価

雨を告げる漂流団地(2022年製作の映画)
4.1
個人的にはめちゃめちゃ良かったんだけど、評判を見て悪いのも、まあ分かる
全体的に刺さる人にだけ刺さればよし、みたいな姿勢を感じるもんな

テーマについて議題を提示するっていうより、セラピーに近いスタイルで、夏芽ちゃんに共感できなきゃそれまでな感じ

でもペンギンハイウェイよりは全然見やすく作ってはあるよこれ
本作は自分は好きだし、この監督の作品は追いかけ続けたいと思えるものだった

昭和(という名の平成)日本の原風景の1つとも言える団地を題材に、卒業するべき過ぎ去った過去の象徴として描くのはいい
しつこくブタメンを描くのもノスタルジーを強調したいからだろうし、どっちかっていうと子供向きではないと思う
大人向けのセラピー映画なんだろう

令和の時代に信じられないレベルでゴリゴリのセカイ系なので、内面世界の変化が物質的な世界に直結する事が受け入れられない人はお呼びじゃないです、程度には説明を削ぎ落としてる
つまり説明がなくてよくわからなかった場合は対象じゃなかったと思っていいです
完全に篩にかけてる


以下、めっちゃネタバレありレビュー


最大の不満点はタイトル
語呂とかエモさ重視な題名で、テーマの芯を捉えたものにしてほしかった
何についての映画かって所での象徴がタイトルなのだけど、この題だと結局どれ?みたいなとこはある

ブレを感じたというか、最も展開としてつまづくのが、令依菜にとってののっぽくん(なんて言ったらいいんだ精霊?精霊でいいか)が登場する点
というよりもあそこで「あ、そういうロジックの世界観なんだ」って事が説明されるので、精霊の女の子を出す機能が令依菜の役割の出発点だったのかもしれない
が、あのキッツい性格に説得力を持たせるような闇をうっすら匂わせる割には、物語に当事者として関わってくるわけでもなく親子関係を描写するわけでもない
結局令依菜を深掘りしたかったのか、精霊を呼び出す役割にそれっぽい説得力を持たせるために闇を匂わせたのかよく分からない
これが、夏芽のメインテーマである親子関係に触れてるからよりタチが悪い
2組扱う事で親子の在り方という広めのレンジのテーマ取りたかった作品なのか、あくまで夏芽の内面世界の問題の1つとして親子の問題もあるという構図の作品なのか、がめっためたにブレてしまった

令依菜の親にまで踏み込んで、親子の問題を深掘り出来ていればもっといい作品になったかもとも思うが、個人的には余計なノイズを入れるべきじゃなかったと思う
ひたすら夏芽の内面にフォーカスさせるべきだった
世界観のロジックの説明なんか要らんし、どうせ欲しい人には全然足りてないのだ

という訳で逆転の展開を遊園地の精霊以外でやってくれれば最高だったのに、ってのがもう一つのメインの不満点


メッセージ性とか全編動き続けるアニメーションのクオリティとかは凄くいい
劇伴もザ・日本的世界観にマッチした素朴な音使いが多くてかなり好み


世界観の説明不足は、ぶっちゃけどうでもいいからどうとでも取れるように幅を持たせているのかな、って印象
のっぽくんの正体がお爺ちゃんなのか、地縛霊の様な存在なのか、思い出に宿る超自然的種族なのか、はたまた付喪神なのか、分からんけどどれでもいいんでしょう、たぶん分かるように作ってない
無理くり説明するなら、戻ってきた時みんなの怪我が残ってたから霊的世界に行ってたとかじゃなくて、物理的に異世界に飛んでいってるよね多分

他の人の考察で、あそこは三途の川って指摘を見つけてかなりしっくり来た
のっぽくんが襲われた黒いモヤモヤは、あの世の亡霊であったり集合的無意識であったり、希死念慮であったりするんだろう
それに夏芽は惹き寄せられてる


物理といえば、とてもじゃないけど子供向けとは言えないレベルで子供たちが生々しく傷付いていくシーンが印象的で、めちゃめちゃ痛いし精神的なグロ表現も結構なレベルなのでネトフリのファミリー映画というカテゴライズは絶対嘘

ファミリー映画が嘘だと思うもう一つの理由が親子関係に対するアンサー
これが結構強烈な内容だと思う
親の愛情を否定しないままで、親への諦めを肯定するという内容
「実の親へ救いを求める事を諦めてもOK」というメッセージ性

劇中ラストで夏芽は母親に甘えてもいい?って訊くシーン
実の母親への愛情があるからこその質問ではあるけど、こう言えるメンタルになれない自己肯定感の低さこそが夏芽の病根な訳で、それに気がついて変化を与えてくれる存在が、血の繋がらない家族である航佑や安爺(のっぽ)なんだよね
この彼女の1番大切な変化に実の親は一切関与していない
それを補強するように、甘えていいと許可を得た夏芽が言った言葉が、「出前を取るのをやめよう。一緒に自炊しよう」なのはかなり凄い
実の親に助けを期待できない事を受け入れてもいい、でも愛情は否定しない、みたいな現実的なドライさ、精神的には親と対等な目線に立つような主人公の変化は果たして子供向けなのか...?
と考えるとこれは夏芽に共感できてしまうある程度の大人向けのストーリーなのではないかとも思える
強かに育て、という現代の子供に対するメッセージとも取れるけどまあまあハードだよね
そもそも団地にノスタルジーを感じる世代って限られる気がするので、監督の世代付近が対象なんじゃないかと思う次第。
悲しい事に近所付き合いとか絶滅寸前だもんな。安爺のような共助的存在は当たり前のものでは無くなってしまったので、現代の子供にはちょっとピンとこないシチュエーションなんではないか?


ところで団地をノスタルジーの原風景に置いてるという意味では、漫画だけど水上悟志作品の「虚無をゆく」もいいですよ。こちらは純粋なSFだけど、ある意味ではセカイ系とも取れなくはない。団地を去るべき場所と設定している漂流団地とは対照的な着地点で比べてみると趣深い。
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