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ダンサー・イン・ザ・ダーク 4Kデジタルリマスター版のbackpackerのレビュー・感想・評価

4.0
ゴールデン・ハート……。

ラース・フォン・トリアー監督。デンマーク映画界を代表する鬼才、自身も鬱病に苦しんだ現代鬱映画作家の第一人者です。
本作は、そんなトリアー監督が、ヨーロッパ三部作に続いて制作した〈ゴールデン・ハート三部作〉の最終作にして、鬱映画の代表格として世に知られる作品です。
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【Tips:ゴールデン・ハート三部作】
トリアーが幼少期に読んだ、善人の少女が理想主義を貫き殉教する『ゴールド・ハート』という童話に則り、純粋な女性が殉死する映画を三作制作したもの。
『奇跡の海』『イディオッツ』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』が該当する。
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ゴールデン・ハート三部作の共通テーマは、自らが定めた枷の中でもがき苦しむ主人公達の末路という、自縄自縛の物語というもの。
本作の自縄自縛っぷりも他に引けを取らず悲惨なもので、純粋故に死んでいく様を見ているのは実に痛々しく、悲惨としか言いようがありません。ただし、本作で描かれる不条理は、実は自ら引き寄せているということも、やるせなさに拍車をかける要因なわけですが。
例えば、ビョーク演ずる主人公セルマは、自らを陥れた隣人ビルとの約束(沈黙の誓い)を、死刑宣告を受けたにも関わらず、律儀に守り続けます。通常であれば、信じられない状況であり、なぜ頑なになるのか理解ができません。
そこには、トリアー監督の嫌らしさ・残酷さ・嗜虐趣味・マゾヒズムが存在していますが、結局のところ、ゴールデン・ハートを持つ純真な存在は、正しいと信じた道を盲目に歩み続ける聖なる愚か者、所謂ホーリーフールでなければならない、という筋道があるから、そう行動する人物を描くしかないのです。それゆえに、セルマの行動が理解不能であったり、自分の足で泥濘にハマりにいくような愚かしさが感じられるわけです。



底抜けにゲンナリした記憶がある本作が、日本国内での上映権執行前に再び上映されると聞きつけたときは、ぶっちゃけ「まさか4K化するとは……」という驚きしかありませんでした。
なにせ、前回鑑賞から10年以上経っていましたからね。記憶も曖昧で、ほかに感想の抱きようがなかったのです。
4K化されても、当然ドキュメンタリー風の粗い映像が輝きを持って煌めくわけでも、ミュージカルシーンの鮮明な映像に明るい雰囲気が付加されるでもなく、ただそのまま、虚しいだけ。辛いなぁ。

結局のところ、物語の持つ力が、映像の美化で変質するとは限らない一例を目の当たりにし(当たり前ですが)、前回鑑賞時同様に強かに打ちのめされ、どんよりした心模様を堪能できました。
憂鬱のススメに挙がること必至な名作、是非ご鑑賞くださいませ。
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