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イニシェリン島の精霊のsugar708のネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

人生、戦争、人間関係の難しさを寓話のように描いた作品。

本作が1923年のアイルランドを舞台にしていて、内戦について触れていることを考えれば、本作の主題となる部分は非常にわかりやすく、シンプルなものなのかもしれません。

昨日まで善き隣人だった人がある日を境に絶縁、敵となってしまう。

パードリックとコルムの関係はまさに戦争の縮図、内戦をもっともミニマムなところまで落とし込んだ形なのでしょう。
何で絶縁されたのかもよくわからず、何とか関係の修復を図ろうとするも上手くいかず、両者が徐々に引き返せないところまで足を踏み入れてしまう物語をブラックユーモアを交えつつ描くこの映画はどこか寓話のように感じられる作品でした。

現在の生活に満足して変わることを拒むパードリックと、今あるものを捨ててでも前に進もうとするコルムの姿は保守派と革新派といえる部分もあり、全ての人や要素に通じるものがあるのかもしれません。

また、本作はそういった内戦の縮図とは別に、閉鎖的なコミュニティでの人間関係の難しさや危うさも描かれているように思えます。

例えば、小学校で仲の良かった友達がクラス替えで別れた途端に疎遠になったり、会社を辞めた途端に連絡を取らなくなったり。。。

条約や同盟のような国家間、契約で結ばれる会社間、結婚という誓いで結ばれる夫婦間の繋がりと違い、「友情」というのはどちらかの心変わりなどでいとも簡単に終わってしまう。

書面などで縛られないその関係は美しくもあり、時に脆く儚い。

別の考え方をすれば、友情や家族、他者との繋がりとはその閉ざされたコミュニティ内で円滑に生きるためだけの道具でしかないのかもしれません。だからこそ、その世界から出ようとするコルムやシボーンにとってその関係は煩わしさや重荷、極端な言い方をすれば絶望でしかない。

自己形成には他者の存在が非常に重要と言われていますが、最後までいい人であろうとしたパードリックが親友であるコルム、出来の悪い弟のようなドミニク、愛する妹シボーンとロバのジェニー、全てを失い最後に自己を保てなくなり、人間として壊れてしまう姿は本当に切なかったです。
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