このレビューはネタバレを含みます
これは征陸へのレクイエムであり、征陸から宜野座や須郷に託された一握りの希望である。征陸が決して手放さなかった信念にはしっかりと彼の指の痕が消えずに残っているだろう。生ぬるい風が頬を撫でる、彼はそれに顔>>続きを読む
病院の待合室にはカップジュースの自動販売機があって、ココアとかバニラとか甘い匂いが立ち込めていた。それは病院の匂いじゃなかった。黙り込んでるひとは何を見てたろう。スマホをさわってるひとは何をしてたろう>>続きを読む
はじめて会ったはずのあなたや、はじめて訪れたはずの場所に、以前にもどこかで出会っているように感じることがある。ひどく懐かしくて、離れがたい。ひたすらに、目で見た記憶、耳で聴いた記憶、指で触れた記憶を遡>>続きを読む
お湯を張った浴槽の中で、よく左右に身体をひねって泳ぐ真似をする。あのときの、ぎりぎり浮いてられる窮屈さを思う。女は、子供は、負傷した戦士は、どこまで逃げれば自由になれるだろう。去年から、ずっとどこかで>>続きを読む
「百年後も夕焼けはありますか。」「うん。あるよ。ありますよ。あなたがそう望むかぎり。」ここ数週間、制服一枚じゃ寒くなってきた。会社から駐車場までの距離を歩きながら、ふと、百年後も夕焼けはあるだろうかと>>続きを読む
生きている人間は、本当にいつだってずるいと思う。わたしを置いてどこかへ行ってしまうあなたのことを、それでもここに居てくれるだろうかと目を閉じ、わたしの中で死なないでいてくれるだろうかと夢見る。なんて勝>>続きを読む
相手さえ居れば、なのだと思う。ひとはそのために生き、感情を耕し、眠り、言葉を使う。「私の顔は変?」他の女性を一人も知らないあなたにどう答えるのが正解かしら、何と比べて愛せばいいのか分からない、肝心なと>>続きを読む
これはわたしだ。これはわたしの映画だ。わたしがもしも長い時間を得て、映画を一本撮ったとしたら、きっとこんな映画になる。猫と暮らし始めて間もない頃、きれいなはちわれのせまい額に、指でハートマークを描いて>>続きを読む
圧倒的光属性のアニャ・テイラー=ジョイ…!!!好き…!!!ってなりました。これアリー役がアニャちゃんでなければ「うん」って言って終わってたやつだと思う。ハスキーボイス可愛いし顔も相変わらず大変ベリーキ>>続きを読む
「海にはことばが眠っている。こんなに静かなのに、ことばが眠っている。こんなに静かに、ことばが眠っている。」わたしの書いた詩を読み上げた赤い唇。わたしの字を見つめていた茶色い眼。冬の日の午後、雪の降りそ>>続きを読む
よく知っているはずのひとの、全く知らない部分を垣間見てしまったとき、なぜわたしたちは立ち止まるんだろう。知るのが怖いのか、知ったことを知られるのが怖いのか、知らないあなたをみとめてしまうのが怖いのか、>>続きを読む
わたしが9歳から10歳を過ごした小学校では、うさぎを飼っていた。三匹のうさぎが居て、そのうちの一匹、仙太郎という年老いたうさぎが、飼育係の中でもわたしに不思議なくらい懐いていた。クローバーを摘んでいく>>続きを読む
思えばもうずいぶん長いこと眠りに依存して生きてきた。忘れられないほどいやなことがあったとき、心がつながれたビーズみたいにばらばらに壊れてしまいそうなほど切なくてたまらないとき、怒ったとき悲しいとき、か>>続きを読む
あなたの悲しそうな顔に、泣けるほど心がゆるむ。そこへ沈み込んでしまいたい。想いは重たいほうがきっとさびしい。でももう対等である必要はないの。割れた壺の欠片を頬に押し当てて涙を流した少女。知るということ>>続きを読む
道路の向こう側に、煙草に火を付けている男性が立っていました。わたしは目が悪く、かけていた眼鏡の度数も合っていなかったから、顔の前に両手を掲げている姿が、わたしには、祈りの姿勢のように見えた。ひどく美し>>続きを読む
ジュリアンのような体験をしてしまう子供が一人でも少なければいいと思う反面、わたしはすべて過ぎ去った後のこの気持ちを知らなければよかったとは思わない。かつてわたしはジュリアンと同じ境遇にあった。両親の離>>続きを読む
大人になってから、諦めてしまうことが増えた。それと同じくらい、諦められないことへの執着心も強まった。たとえば、ねこ、わたしは自分の飼ってる猫を自分の命よりも大切に感じていて、そのために恋人と別れて友達>>続きを読む
Filmarksの評価があまりにも低すぎて、これまたそんなことないやつやろ〜絶対実はおもしろいやつやろこれは〜と天邪鬼を発動させてリメイク版『サスペリア』より優先して借りてきてしまった次第ですが予想を>>続きを読む
誰かと1対1で関わるとき、一番くるしいのが「できない」ってことだった。たとえわたしと相手でパズルのピースのような完璧な凹と凸を持って欠陥を補い合えるとしても、ひっこんでいるならそこに相手を受け入れなく>>続きを読む
同じくらいかわいそうになってください。そうすれば同じくらい満たされる。許すことも許されることも教わらなかった子供たちは怒りと憎しみを持て余し、された分の倍の苦しみを他者に与えようとする。第二次性徴の一>>続きを読む
映画化を視野に入れて書かれているであろうキングの小説は、そこで終わってしまっても本当に何も問題ない。『スタンド・バイ・ミー』には映画以上に生と死が織り成す圧倒的なイメージが言葉の中にあったし、『シャイ>>続きを読む
日記を書くよりも、夢日記を書く方が昔からずっと好きだった。愛の中でわたしたちが得られるものの中には、ことばにする必要があるほどの価値のあるものなんて一つもないのかもしれない。もしかしたら伝えることで、>>続きを読む
完璧な悪夢だった。悲しさは過ぎればいつも潔く鋭い。真っ暗なものに緑と赤で色を付けて誤魔化されているだけかもしれないなにか、悪夢だって夢だ、夢の中のあなたは、まばたきするたびに顔付きを変えているはず、そ>>続きを読む
誰か一人への愛のために生きることを「自分のために生きられない」と解釈している男が嫌だった。キム・ミニだけが綺麗だった。世界でどんなことが起きようともそれを美しいと信じている彼女の白い頬に開けられた瞳が>>続きを読む
わたしたちはここにあった。住む世界も笑いかける相手も違うわたしとあなたが、言葉もなく手を取り合い都市の夜を回す歯車の一部になろうとしている、それだけで満たされてしまいそうで怖い。いずれはぐれることが分>>続きを読む
「この秘密に決して辿り着けないようにプログラムされたあなたが、ここまで辿り着いてしまった。この意味が分かる?」瞳ごと涙になってこぼれ落ちてしまうのかと思った。ことばなんかじゃ絶対に届かないところでずっ>>続きを読む
夕焼けか朝焼けかもう分からなくなった孤独なふりした世界で、瞬き一つが惜しかった。白いTシャツに透けて見えたオレンジ。黄色い髪の毛のあいだからはじまってゆく夜のブルー。古い写真の裏側や花の落とす影から世>>続きを読む
わたしにはたった一人だけ、自分から距離を置いて疎遠になった友人が居ます。"僕"、静雄、佐知子の少しずつが彼女にそっくりで、ああこういうひとたちの物語は、いつまでもわたしのためには降りてきてくれないんだ>>続きを読む
同じことを同じようにして、これ以上息ができなくなった合図をするの。 かれてしまった涙の跡を真っ赤に染まった空が焼いて、それを冷やすように夜が忍び寄っていることにきっときみは気づけない。鮮血は温くても指>>続きを読む
わらうように、眠気のように、涙がこぼれる。家の中に差し込む午後の光、血の流れにも似た潮騒、雨が窓を打つ、夕立ちが夏を連れ去れば、またここに冬の匂いが満ちる。差し出せば握られる五本の指は、きっとこのため>>続きを読む
幸福が持続しないことは誰しも知っている。それなら、不幸が死ぬまで続くように思えてしまうのはなぜなんだろう。美しいものに触れ、あなたに触れられて、からだじゅうに空けられた穴をふさぐ。どんなに救いようがな>>続きを読む
幼い頃、星を見に走らせた車の中で、母はよく、わたしが生まれたばかりのころの話をしてくれた。途中でうとうとしても、ずっと母は続けてくれて、でも目を開けたらそこで終わってしまう気がして、ずっと目を閉じて、>>続きを読む
わたしは煙草を吸いません、ビールも飲みません、本気になった人の前で、本気になって泣いたことも怒ったことも笑ったことだって、ないの。もう取り返しのつかないほど、もう動けないほど、わたしの心のなかは、わた>>続きを読む
感覚に突き動かされてわたしたちは愛しあい憎しみあい走り出し、目指しているのは、幸福のつもりで幸福ではない。普段絶対に知ることのない見えない感覚たちの旅路を見せられたような気がした。わたしたちは死んだ者>>続きを読む
詩を器にして愛を書いているつもりだった。だけれどいつしか、ことばは愛、詩人は、その容れ物。記憶と記憶を足しあって現在という答えを導き出し、ゆらめく火の中で、あるいはめくられる水の中で、目をつぶり、魂は>>続きを読む
これは夢?それとも悪夢?狂気か正気か、もう私にはわからない・・・ジェシカのそんな語りで始まり終わる本作の原題は「ジェシカを死ぬほど怖がらせよう」、おそろしさ、あたらしさ、おもしろさ、どれに固執したホラ>>続きを読む