海さんの映画レビュー・感想・評価 - 6ページ目

ザ・バニシング-消失-(1988年製作の映画)

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人は、既知への愛着と未知への好奇心の間でいつも選択を強いられているのかもしれない。この世には、数えきれないほど恐ろしい話が蔓延っていて、それが誰の庭から放された物なのか、特定することは不可能に近い。も>>続きを読む

白河夜船(2015年製作の映画)

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肌の中に脂肪があって、脂肪の中に筋肉があって、筋肉の中に骨があって、骨の中に心臓がある。肉体の当たり前のこと、でもそこに宿る精神のせいで、当たり前には感じさせてくれない、そういうことがある。高校を出て>>続きを読む

キャビン(2011年製作の映画)

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死へのはばたき、という昆虫の変態を解明するために行われた有名な実験がある。これについて初めて読んだとき、昆虫っておおよそ、人間の作り出す「怪物」像だな、と思った。脆いのに不死的で、忌み嫌い恐れ慄かれる>>続きを読む

ブエノスアイレス(1997年製作の映画)

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波長があわないのに出会い続けるのがこの二人なんだとすればわたしと彼は真逆だったな、それがなんとなくすごく面白いことみたいに思えてあははって声に出して笑って、そしたら涙が出そうになってくちびるを噛んだ。>>続きを読む

カルマ(2002年製作の映画)

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いま読んでいる本が、「香港映画は屋上を目指す」という章から始まる。レスリー・チャンの最期から始まる。香港映画は垂直だというのを意識して、本作を観ていると、本当にそのとおりのように思えてくる。高いビルが>>続きを読む

ランナウェイ・ブルース(2012年製作の映画)

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凍えきったこの広い街の片隅で、毛布にくるまり眠る犬がいた。寒空の下、人の家の庭から一匹の犬を盗み出し、連れ歩く主人公を見ていて、ああこれだと思った。ウィリー・ヴローティンの物語にある「やさしさ」は、あ>>続きを読む

ペンギン・ハイウェイ(2018年製作の映画)

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119分のうち911分くらいは泣いてたと思う。涙が止まらなかった理由について少し考えてみた。それはきっと「予感」のせいだった。永遠に生きてほしいひとにつきまとう死の予感、永遠に別れたくないひとからこそ>>続きを読む

イントゥ・ザ・ワイルド(2007年製作の映画)

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誰かと居て話したり笑ったりしている時の自分と、何かを読んだり観たり聴いたりして作り上げていく自分。どっちが本当のわたしなんだろう。わたしはそれなりに、自分を賢い人間だと思っている、望んでいることや伝え>>続きを読む

エイリアン(1979年製作の映画)

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一昨年の五月、広島で開催されていた猫の美術展に行った。中世ヨーロッパでの猫への迫害について、知っているつもりだったのに何も知らなかったことを思い知った。時間と言葉をさらっていった数時間だった。ゴッホの>>続きを読む

存在のない子供たち(2018年製作の映画)

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子猫を育てる犬の動画を見たり、幼い弟妹の面倒を見ている子供を見かけると、まだ自分にもこの無意識の意志が残っているだろうかと考える。たとえばの話、わたしが今まさに怖いと感じていることの中に、「誰かにとっ>>続きを読む

マイ・エンジェル(2018年製作の映画)

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幼いころ、母が身に纏うものはどんなものでも一番うつくしく見えた。古着のジーンズも会社の制服もブリジストンのウインドブレーカーも、世界で一番うつくしく見えた。百円で買った髪留めも、片方なくしたピアスも。>>続きを読む

銀河鉄道の夜(1985年製作の映画)

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夜、窓のそばに座って、冷たくもないべたつきもしない気持ちいいだけの風を感じていると、ベルがふと上を向いてじっとすることがある。わたしの想像でしかないけれど、たぶん、風の匂いを嗅いでいるのだと思う。見え>>続きを読む

夜明け(2019年製作の映画)

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言われるより前にさよならを言って、通いつづけた海沿いの小さな町にも行くことがなくなって、一年以上ぶりに、ラジオを聞く生活に戻った。最近聞いてる局で流れる音楽はどちらかといえば邦楽が多くて、あとは新型コ>>続きを読む

スクールズ・アウト(2018年製作の映画)

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手を握ること。怖いのだ。高く高く飛んでいってしまいそうな体が、あるいは深く深く沈み込んでしまいそうな体が。変わってしまうこと?このまま永遠を誓わされてしまうこと?判らない。首を絞めでも、引っ叩きでもし>>続きを読む

37セカンズ(2019年製作の映画)

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どんなふうに関わればいいのか分からなくて避けてきたひとや物事がわたしには沢山ある。そして多くの人がそうなのだと思う。ただ話をすることがこんなに難しく思えるのは何故か。すぐそこに見えている誰かと分厚い壁>>続きを読む

ウォールフラワー(2012年製作の映画)

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先々週に熱が出てからずっと在宅で仕事をもらっていて家にこもりきってる。ぼーっと会社行ってたときには見えなかったものがおかげでよく見えてきてしまって困る。今日も好きなアイドルの歌を聴いて泣いてたし、猫が>>続きを読む

マイ・プライベート・アイダホ(1991年製作の映画)

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靴の一足分だってないはずの、距離のつめかたがわからない。ひとは自らを実感するために常時他者を必要とするのですなんてわかったように言ってみてもあなたを必要とするその方法がわからないならまるで意味のない言>>続きを読む

秋刀魚の味(1962年製作の映画)

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小津安二郎の映画を観るといつも、ここに居たいと思いなおせる。帰ってはこない旅に出掛けようとしてる晩だって、旅行鞄の前でいつのまにか眠りについてしまうだろう。かじかんだ心が、温かい熱でとかされる、頬から>>続きを読む

クロール ー凶暴領域ー(2019年製作の映画)

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アレクサンドル・アジャ監督作で楽しみにしてたのですが売り的にはアジャよりサム・ライミ製作という点らしい。室内プールの日光さえ思わせる眩しさと、しかし外に出ると一転すでにハリケーンに備えて行われている大>>続きを読む

千と千尋の神隠し(2001年製作の映画)

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小さい頃、ある水族館へ連れて行ってもらった。この記憶は時系列がはっきりしてないんだけど、確か、両親が離婚した少し後、日帰りの旅行で母に連れて行ってもらったのだと思う。まだ暑さも寒さも感じないくらいの子>>続きを読む

Girl/ガール(2018年製作の映画)

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耳にこんなにも気持ち良い声で囁かれる少女の名前。ララ、ララ。音と光の織り成したこの美しい朝の光景が、わたしの中で息をひそめながら何度も何度もくりかえされる。涙や声を噛み殺し続けるララが、水を飲み、風を>>続きを読む

海獣の子供(2018年製作の映画)

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わたしの好きな要素が揃ってるんだから、当然好きだろうと思って観ていたのに、心は離れていくばかりだった。言葉は悪いけれど、傲慢だな、と感じずにはいられなかった。海や花の自然、陸でも海でも空でもそこに暮ら>>続きを読む

失くした体(2019年製作の映画)

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アラームを止めた手、目を擦った手、化粧をした手、猫を撫でた手、ドアを閉めた手、ハンドルを握った手、キーボードを打った手、書類を受け取った手、そっと重ねた手、エンジンキーを回した手、海に触れた手、プリン>>続きを読む

天国はまだ遠い(2015年製作の映画)

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誰も居ない銭湯は思えばあの時がはじめてだったな。誰も居ないのにあらゆるところから聞こえる水の音にひたすら耳をすませた。たぶんわたしたちは、あのあとどこへ行ったって、たとえ一緒の湯舟につかっていたって、>>続きを読む

天然コケッコー(2007年製作の映画)

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映画を観ない生活をふと始めてみて、まだ一週間も経っていないのに、もう二百年くらい流れてしまった気がする。寂しくて昨日の夕方泣きそうになって本当に時々あまりに子供っぽい自分にいやになる。そよちゃんの言っ>>続きを読む

ヤンヤン 夏の想い出(2000年製作の映画)

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わたしは幼い頃の記憶がよく残っているほうだと思うけれど、入院していた大伯母さんのお見舞いに行った日、確かに見つめていたはずの顔を、どうしてか覚えていない。「おばちゃんのお見舞い行った時のこと覚えとる?>>続きを読む

花様年華(2000年製作の映画)

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花へ花へ飛びまわる蝶々、夢へ夢へうつり棲むあなた。あの夏の日、あなたの腕の中にいたとき、わたしの目と、こぼれる言葉が、含む水量は同じだった。あなたの声と、髪を撫ぜる指が、纏う風量は同じだった。同じだっ>>続きを読む

ドライヴ(2011年製作の映画)

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言葉が死んでいく、目まぐるしいばかりの速さで。心が息を吹き返す、血に塗れ待ちわびたキスで。どうしてか出会い、どうしてか別れた、出会いと別れと共に死んでいく明日、目の前で起こること全てが灰色に霞むこの世>>続きを読む

ブレードランナー 2049(2017年製作の映画)

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光る箱がまだアナログ放送を映していたころ、深夜になると番組は終了していた。悪影響を及ぼすと謳われる対象がテレビからネットワークへと移り、アナログ放送がデジタル放送へと代わった今、24時間、光る箱の中で>>続きを読む

ライク・サムワン・イン・ラブ(2012年製作の映画)

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あなたが悲しいのか苦しいのかどうしたいのか何がいやなのかいつも分かっていられたらいいのに。自分の愛するひとやものごとを自分と同じように大切に扱ってくれない人間は、世界中のどこにでも居る。わたしの知らな>>続きを読む

フェノミナ(1985年製作の映画)

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愛が怒りになる、すべてが感情になる。きみの手の中、胸の上、黒い髪のたなびくそのさきで、心を持たないものたちが粉々に砕けて生まれ変わる、少女はたらちねの母になり、世界が溺れる。蜘蛛は熱風に糸をさらけ出す>>続きを読む

モンスターズ/地球外生命体(2010年製作の映画)

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暗がりをゆく船。この青い星は今や赤い星。特別な合図ではなかった声と静寂のリズムが、わたしを生かし、あなたを引き留め、運命を結びつける。あなたは何を憎んでいるのか、あなたは何を愛しているのか、その声は怒>>続きを読む

欲望の翼(1990年製作の映画)

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眠りたいのか、飲みたいのか、喋りたいのか、ふれたいのか、わからないときって、大抵は泣きたい。自分のことなのに分からないことが海のようにある。分かってるつもりの誰かとのことが山のようにある。昔、一人にな>>続きを読む

きつねとクジラ(2016年製作の映画)

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2018/8/18 こんな夢を見た。さむい冬の日に猫が死にかけた。わたしは猫をどこかへ連れて行くために抱き上げた。つき刺すような冷たい空気のなかで、猫の体温を感じている頬と肩と胸だけがあたたかかった。>>続きを読む

ブレードランナー ファイナル・カット(2007年製作の映画)

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神は居るのに天使が居ない世界という感じです、成り立たないです、私の中で。名作と名高い映画は大抵好きになれる自信があったんだけれど、こればかりは何を好きになればいいのか本当に分からない。私の中には空しさ>>続きを読む

悪魔のいけにえ(1974年製作の映画)

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怖いものを怖いと言えるのは幸福なことだと思う。わたしはもう目をそらすことすらできなくなってしまった。人は理解が及ばないものに恐怖を覚えるというけれど、そもそもこんなふうに摂取する恐怖というのは偏見や差>>続きを読む